0人が本棚に入れています
本棚に追加
「僕はそこまでロマンチストではないからね。救いようのない頑固者としか思わなかったよ。でも、母の人生だからね。僕が君とニューヨークに行くと言っても反対しなかった母だ。僕も母が父を待つことに反対はすまいと心の中で思っていたよ」テッドはにっこりした。
「あなたがキャレンさんの気持ちを尊重してくれてよかったわ。あなたから指輪をもらって私達が結婚を決めてから、キャレンさんにニューヨークに来ませんかって誘ったわよね。私達と一緒に住んでくれたらって、私、本当に望んでいたのよ。キャレンさんとなら同居しても大丈夫って感じたから」
「うん、あの時はありがとう。母もあとで、誘ってもらえてすごく嬉しかったって言ってたんだ」
「だけど断られたわ。住み慣れた場所がいいって。本当はエイダンさんが戻ったときのために、キャレンさんはサンフランシスコから出たくなかったのよね」
「ほんとに頑固者だったからね。ダンが二十歳を過ぎてから、君があの子に指輪を託して…それからダンが気を利かせて、指輪を母の元に送ってくれて…指輪は元の持ち主に戻った。あの指輪も、若い頃の母の指にはめられてから、随分(ずいぶん)、長旅をしてきたものだ。あの指輪は母と父の物だ。もう二度と手放してほしくないな」
テッドは立ち上がって妻に手を差し出した。二人は一緒に手をつないで玄関のドアのところまで行き、ドアをそっと開けた。
最初のコメントを投稿しよう!