第一章

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誓いの言葉を宣誓し、指輪を交換しようとした、まさにその瞬間、教会の扉がギイと開き、見知らぬ女が駆けよってきた。 チビ、デブ、ブスの三重苦のその女は涙と鼻水を垂らしていた。 それにしても酷い顔だった。 ミミズより細い目に、団子っぱなについている、二つのまん丸のはなの穴を見たら………、おかめちんこが絶世の美女に見えてくるぐらいだった。 そこにいた人々全員が息をのんで成り行きを見守っている。 男はゆっくりと花嫁のヴェールをあげて、彼女を見つめた。 それから、今度は三重苦の女の顔を見つめる。 男は苦渋に顔を歪める。 それから、観念したようにため息を一つつき、「美咲さん、ごめんなさい」と言って、その女の手を取って逃げ出して行った。 教会に衝撃が走る。 まるで津波のように、動揺とざわめきが教会を襲った。 女が連れて行かれるならともかく、三重苦の女が三重苦の男と逃亡したのである。 落語だってこんなオチはなかろう。 大急ぎで披露宴から予定変更されたその後の食事会は、異様な興奮に包まれていた。 「あの女は何者なんだ?」 「あいつ、二股かけてたのか? チビのくせに。」 「ほんとだな、信じらんないよ、ハゲのくせに。」 「よく、あんなに早足で逃げられたよな、デブのくせに。」 人々は言いたい放題であった。もちろん、誰一人として男に同情するものはいなかった。 気の毒なのは花嫁である。 その食事会で、我を失った彼女の前にプロポーズをする男が列をなした。前代未聞である。 もちろん、オレもその列に並んだうちの一人だ。
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