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「お客さんも君のことを気に入ってるようだしね。今更辞められちゃうと、私がお客さんたちに悪く言われそうだ」
「やった!住み込み分、しっかり働かせていただきますね」
彼女はまっすぐにそう言った。住み込み分なんてとっくに越えているのだが、それは給料日に伝えることにしよう。そんなことを考えながら、味噌汁に口を付けた。
「あ、住み込みの件はお客さんには言わないようにね。君も勘違いされたら困るだろうから」
言っておかないと、平気で言ってしまいそうな彼女に念のためクギを刺す。
「勘違い、ですか?」
またしても首を傾げる彼女に、思わずため息が漏れそうだった。
「年頃の女性が男と同居しているなんて、どう思われるかはだいだい想像つくだろう」
「んー、あんまり困らないですけど、淳さんがそう言うなら言わないでおきますね」
耳を疑うその言葉に目を見開いたが、彼女は何事もなかったようにご飯を頬張った。その様子に何も言えず、私も食事を続けたのだった。
まだ梅雨の明けない外は、微かな雨の音が聞こえていた。
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