恋に堕ちて

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恋に堕ちて

 瀧口のアロマの匂いに、桜は思わず噎せた。  自分では気づかないのだろうか?  皆がゴホゴホ咳き込んでいる。 「大丈夫?みんな?インフルエンザか?」 「豚!おまえだよ、クセぇよ!」  編集長の玉野が、瀧口の頭を丸めた週刊誌でひっぱたく!愉快だった。デブ、不愉快なんだよ! 「痛いなぁ、叩かないでくださいよ。タマさん見たいに薄くなっちゃうだろ?」  玉野の頭は水晶の玉みたくピカピカ輝いている。 「何だと!?敬語使えよ!」  玉野が瀧口の胸ぐらを掴んだ! 「やったれ!タマさん!」  玉野の腰巾着、光浦が言った。狐みたくゲッソリ痩せている。  このアロマ野郎!早く殴られろ! 「ふんっ、豚なんか殴ってブタ箱に入りたくないからな?あー、もう!帰ってくれないかな!?」  桜、玉野、光浦、詩織の、4つの鋭い視線がデブを包囲する。 「ワキガ臭いのが治ったと思ったら、今度は香水?マジで勘弁してよ!」と、詩織がトドメの一言を投げつけた! 「ふざけてんのか!てめぇらぁぁぁぁっ!!」  瀧口の豹変ぶりに編集部は震撼した。   瀧口が翌日から来なくなった。  桜はホッとした。 「クセぇのがいなくなって良かったな?」  怒りからか、光浦はワナワナと震えている。 「編集長、瀧口君大丈夫ですよね?」 「何で桜ちゃんが、あの豚を心配してんだ?」 「いっ、いや…心配なんかしてませんけど」  多摩川に浮いてるんじゃ?桜はおぞましい想像をした。 「デブなのは事実だろ?人を禿げ呼ばわりしやだるからだ」  玉野がペン入れしながら言った。新進気鋭の作家、炎大炸の《愛》って作品だ。ホムラダイサク、響きがいい。炎はイケメン俳優で、北枕社長の息子だ。本名は、北枕賢作と言う。 「しやだるから?」と、光浦がクスッと笑う。 「噛み合わせが悪いかな?」アゴをガクガクやり、「しやがる、しゃがる、シャガール」と発生練習をする。  桜は気づいた。恋に堕ちてしまったことに。              
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