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頼む、誰か聞いてくれ。
今、それどころじゃないのは確かだが。
◇◇◇◇◇
それは、愛美との結婚式まで、あと1ヶ月って頃だった。
出会ったキッカケは合コン。なんとなく付き合い始めて、半年経つ頃には自然と結婚の話が出て。
実際、愛美の事は、ものすごく好きって訳でもなかったが、まあ俺も30歳を迎えてそろそろ年貢の納め時、って感じだったし。
ああ、これで俺もごく普遍的な人生のレールとやらに乗っかるのか。
結婚して子供が出来て、気が強い愛美の尻に敷かれて。
家のローン抱えて、小遣いは月1万くらいか。ささやかな楽しみは、安ビールの晩酌くらいで。
てな感じで、諦念モードに入ってたのさ。
所謂、マリッジブルーってやつだったのかもしれない。
そんなある日の夜中に、スマホが鳴ったんだ。
まさに、運命を変えるコールだったよ。
「もしもし、達也くん?」
「はい、誰ですか?」
「覚えてるかな。安西です。安西沙也」
……安西沙也?
「ほら、中学の時に一緒だった」
とたんに甘酸っぱい記憶が、心の奥底からふわりと引っ張り出される。
安西沙也。
中学の時、席が隣で、それはそれはすごく綺麗な子で。
お互い、なんとなく恋心を抱いていたが、思春期特有の微妙な距離感で、付き合うまでには至らず。
彼女は卒業と同時に、どこか北の方へと引っ越すこととなって、それっきりだった。
「覚えてるよ、勿論」
「久しぶりだねえ。今、何してるの?」
暫くお決まりの近況報告が続いた後、沙也は唐突に切り出した。
「……あのさ、あの時の約束覚えてる?」
「ああ、なんだか照れくさいな」
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