マリッジブルー

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土曜日。 流石に休日は、フィアンセである愛美と過ごさなくてはならない。 それは沙也も同じだろう。 晴れ渡った穏やかな、ごく平穏な一日。 だが、俺の心は浮かなかった。 「どうかした?」 式場での打ち合せの帰り道、怪訝な表情で愛美が俺を見やる。 「いや、別に」 「なんかさー、機嫌悪くない? もうすぐ結婚するんだから、そんな態度やめてよね」 そうだ、もうすぐ俺は愛美と永遠の愛とやらを誓う。 だが、その前に、どうしても沙也と会っておかねばならない。 そう、これはある意味、過去の清算なのだ。 翌週も、沙也とは毎日、会う約束をした。 だが、それはことごとく失敗に終わった。 財布を落とす、痴漢に間違われる、急な葬式、ぎっくり腰で病院搬送。 「だめだ……。もう何かに呪われているとしか思えない」 「結局、会えないのかしら。私たち」 待てよ。 「そうか、約束するから駄目なんだ。これから会おう。そっちへ行くよ。歩いて15分くらいだし」 時計は22時を指している。 支度して出掛けても、22時半には沙也の家に着くだろう。 少しだけ。 ほんの少しだけ顔を見れれば、それでいいのだ。 それでお互い満足して、気持ちの整理がつく。 「わかった、待ってる」 俺は急いでパーカーを羽織ると、家を飛び出した。 今日こそ。 今日こそは、沙也に会えるのだ。 何でもっと早く、こうしなかったのだろう。 家を出てすぐ、通りの角を曲がったとたんに、3名の警官に取り囲まれた。 「ちょっと話をいいですか?」 「いや、急ぐんで」 「この先で強盗傷害事件が起きましてね。申し訳ないですが、皆さんにお話をお伺いしてるんですよ」 別の警官が、あれ、と言いながら俺の顔をハンディライトで照らす。 もぞもぞと何事か小声で話合う警官たち。そして、インカムで応援要請をしてる? 「な、なんなんですか?」 「お兄さん、目撃者が話した犯人の特徴に一致するんですよ」 「そ、そんなバカな!」 たちまち周りに何台ものパトカーが集結し、辺りは騒然とする。 「ちょっと署まで、ご同行願えますか」 それから俺は容疑が晴れるまでの3日間、留置所で過ごすこととなった。
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