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慎一郎さん、何だかんだいっても面倒見がいいんだわ。
秋良は忘れたい過去をほじくり返す。慎一郎が秋良に禁酒を促すのは、彼女がひどく酔った時の経験があるからだ。介抱されたヨッパライの目からは、焦った彼の姿はすごく新鮮に映った。その時の様子を思い出して、つい笑みがこぼれた。
「ご迷惑をおかけして。本人は楽しかったようですけどね」
宗像の妻は言い、秋良は我に返る。
「すみません、私たち、よく見ていなくて」
「いいんですよ、いい歳した大人なんですから。それより、皆さん楽しめましたか? 時々、度を超して飲み過ぎて、その度にお仲間に運ばれるんですよ。ごめんなさいね」
「いえ、そんな!」
「あの人、今日は古い友人の祝いだって張り切って出かけたんです、自分が憧れていた人と結婚すると。よく言ってました、きれいな名前の人だった、名前だけじゃなくて、本人もステキな女性で高嶺の花だったと。あなたのことだったんですね」
「私は……」
秋良は瞳を伏せる。
「主人から聞いてます。プロポーズしたけど、けんもほろろに断られた、他に好きな男がいるから相手にしてもらえなかった、って。だから君と結婚したと」
「奥様」
「よく聞かされてたんですよ、昔の恋の思い出がよっぽど鮮やかすぎたみたいで忘れられなかったようですね」
「どう――思われました?」
秋良はぽつりと問う。
昔、夫が好きだったという女に問われて、良い気分のわけがない。けれど聞かずにはおれなかった。
「そうね、それこそ昔は驚きましたし、傷付いたし。何てデリカシーのない人だと呆れましたよ。でも、男ってどなたも似たり寄ったりではないかしら」
「はあ……」
「それね。何だかんだと言いつつ、帰ってくるのはここ。夫は妻の元へ帰るものですから。あなたも、わかる日が来るわ」
そう言って宗像の妻は微笑んだ。
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