第1章

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「今日、日本に着きます」 そう連絡を入れた時、彼は「そうか」と応えた。 短いやりとりの中、今では口にせずとも何を考えているのかがわかるようになった。 帰国を喜んでくれている。 嬉しくて、たまらないのだと言ってくれている。 愛する人の真っ直ぐな想いより嬉しいものはない。 それは今の秋良にとって何より喜ばしいものだ。 わかっている、けど―― 何かが枷になって、彼女を縛る。 まるで二人の立場が入れ替わったようだ。 慎一郎の元を、それこそ子犬のようにじゃれてまとわりついていたのは秋良。 彼女を扱いかねて弱り切っていたのは慎一郎だった。 その頃の風景が彼女の頭の中をよぎる。 慎一郎も、私と接する度に同じ思いをしていたのだろうか。 愛している。けれど、近づかせてはいけない、しかし……、と。 彼の側にいたら、不安は消せるのかしら。 私の思いはどこへ行くんだろう。 秋良は乗務中の一番気を抜けない瞬間ですら、今まで入り込んだことのない感情に揺り動かされて困惑した。 今からこんなことでどうするの。 お願い、あなた。おしえて。私はどうすればいい? この不安は、解消できるの? 自分のことなのにまるで他人事のように。彼に助けを求めてしまう私。 助けて、慎一郎さん。弱くなった私を支えて。 幸せなのに怖い。 電話を切った後、秋良は人差し指をさすった。 そこには本来、彼から贈られた婚約指輪があるはずだった。 今は外していて手元にはない指輪が恋しい。 身につけていた期間はとても短かったのに、不在が寂しかった。
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