第1章

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「秋良ちゃん」宗像は言った。 「こいつから話行ってると思うけどさ、本の仮出版と君たちの婚約祝い」 「え、ええ、伺ってます」 「いっしょくたで申し訳ないんだけど、今晩どうかな。仕事で疲れてるだろうけど。無理そうなら日を改めるよ」 「いえ、大丈夫です」 「そう、よかった」 「出版のお祝いということは、できあがったんですね」 「まだだよー、校了まであと少しなのに、誰かさんのせいで遅れてるの」 「おいおい、私だけの責任か? 君はどうなのだ」 「まあ、慎一郎ばかりが悪いわけではないが」宗像の後ろから入ってきた田中が口を挟む。「ま、あと少しだし、予定通り校了はできるんじゃないかな」 次いで蛯名も言う。 「宗像、君のグラフ、また一部おかしいところあったよ。付箋入れといたから確認しといて」 「えー、またかよ」 「うん。まただよ」 「わかった、直しますよ、そうだよ、校了遅れの根源は俺だよ、わかってるさ、だから、いい加減離れたらどう? そこの二人!! 聞いてる!?」 ――顔から火が出そう!! まるで意に介さず涼しい顔をして、固く腰を捉えた手をちっとも離そうとしない慎一郎が、何とも憎たらしく、でも嬉しい。 彼のことなら全て許せてしまう。私はそういう女なのだわ、と秋良は思った。
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