11人が本棚に入れています
本棚に追加
「秋良ちゃん」宗像は言った。
「こいつから話行ってると思うけどさ、本の仮出版と君たちの婚約祝い」
「え、ええ、伺ってます」
「いっしょくたで申し訳ないんだけど、今晩どうかな。仕事で疲れてるだろうけど。無理そうなら日を改めるよ」
「いえ、大丈夫です」
「そう、よかった」
「出版のお祝いということは、できあがったんですね」
「まだだよー、校了まであと少しなのに、誰かさんのせいで遅れてるの」
「おいおい、私だけの責任か? 君はどうなのだ」
「まあ、慎一郎ばかりが悪いわけではないが」宗像の後ろから入ってきた田中が口を挟む。「ま、あと少しだし、予定通り校了はできるんじゃないかな」
次いで蛯名も言う。
「宗像、君のグラフ、また一部おかしいところあったよ。付箋入れといたから確認しといて」
「えー、またかよ」
「うん。まただよ」
「わかった、直しますよ、そうだよ、校了遅れの根源は俺だよ、わかってるさ、だから、いい加減離れたらどう? そこの二人!! 聞いてる!?」
――顔から火が出そう!!
まるで意に介さず涼しい顔をして、固く腰を捉えた手をちっとも離そうとしない慎一郎が、何とも憎たらしく、でも嬉しい。
彼のことなら全て許せてしまう。私はそういう女なのだわ、と秋良は思った。
最初のコメントを投稿しよう!