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学生街の居酒屋じゃあるまいし! と蛯名も田中の反対側から宗像の肩を抱えた。
両脇から支えられて、ふらふらと、千鳥足の友人を見て、田中は言う。
「だめだわ、こいつ、一人で帰れない。車呼んでくる」
宗像を壁に立たせ、田中は表通りへ走った。
「珍しいね、こいつがでろでろになるの。酒強いのにな」
蛯名は宗像の頭をこつんと叩いた。
「だから、俺は酔ってない、つうの!」
「はいはい、わかったわかった」
「慎一郎ーっ!」宗像はゆらゆらと、まるでダウン寸前のボクサーのような足取りで立ち、彼を指差した。
「お前、秋良ちゃんを泣かせたら、俺が許さないからなあーっ!」
「知ってる」
「知ってない、お前、知ってないんだぞ!! いいか、俺は、秋良ちゃんに振られたんだ! 本気でぶつかって――投げ飛ばされたんだあーっ!」
「投げ?」
慎一郎は咄嗟に彼女を見た。
あ、と口元を押さえ、秋良は口ごもる。
「ホント、黙ろうな」蛯名はゴツンと鉄拳を彼の頭に見舞い、宗像はへなへなとその場にくずおれた。
「おい、車、見つけて……って、あーあ。やっぱ潰れた?」田中はふうとため息をする。
「仕方ない、運ぶぞ」
ずた袋を引きずるように宗像は引き回す。
「じゃ、俺らこいつ送っていくから」
後部座席に押し込んで言う田中に、慎一郎は答えた。
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