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「私が請け負う」
「お前が?」
「宗像の仮住まいを知っているのは私だけだから」
「ああ、でも教えてくれれば後はやっとくし」
「うん、いや、やっぱり私が行こう」
田中を押しのけ、後部座席に座ってドアを閉めた彼はパワーウィンドウをスライドさせて秋良に言った。
「後で電話する。田中、車をもう一台都合つけて……」
「行きます」秋良は言う。「私もご一緒します」
有無を言わせず、彼女は前のドアを開けて座り込んだ。
「その方がいい。婚約者を真夜中に放置したって聞かされたら、宗像、烈火の如く怒るか、奈落にたたき落とされたように落ち込むだろ」
「しかし……」
時計はタクシーの深夜料金の時間帯にさしかかっている。慎一郎はそのことを気にするように腕時計を指して示した。秋良は頷き返した。
「早く送り届けましょ。奥様も心配してますわ」
「じゃ、後頼んだよ」
俺ら飲み直すからー、と二人の男は手を上げて二歩三歩内路に下がる。
「どちらへ向かいます?」と運転手が問う。
「お住まいはどちらですの?」と秋良も促した。
こうなれば仕方がない。慎一郎は宗像が滞在するレジデンツを伝えた。車はゆるやかに目的地さして発進した。
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