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ある日、会社から戻った日出雄が見たのは、リビングの床に突っ伏した香の姿だった。
「おい、どうした、大丈夫か。」
慌てて香の元に駆け寄ったが、すぐに体を動かしてはいけないかもしれないと、香の反応を少し待った。
「大丈夫、少し疲れてめまいがしただけだから。」
香は広い家のすべてを毎日掃除し、家事を完璧にこなしている。
日出雄は家政婦を入れようと進言したが、「ここは私たちだけの国なの。」と笑っていた。
「だから言っただろう、無理することはない。」
日出雄は優しく肩を抱き寄せた。
「そうね、できれば病院に連れて行ってくれるかしら。」
「当然だろう。」と日出雄は香を抱きかかえた。
「恥ずかしいわ、自分で歩けるから。」
二人は十年間愛用している大衆車に乗って、自宅から少し離れた大病院へと向かった。
その日は土曜日だった為、午後からは予約した患者しか受け付けていなかった。
日出雄は半ば強引に診察を申し込んだ。それを制止するように香が受付を済ませた。
大きなソファーが並ぶ大きな待合室、ガラス張りの室内に不必要なまでに照明が多い。
見渡せば三十人は待っているだろう。
いろんな診療科があるから、それぞれに待ち時間や症状が違うわけだが、日出雄はいらついていた。
だれもかれもが元気そうに見える。
予約患者だから緊急性は低いかもしれないが、身勝手な思い込みであろう。
ほどなくして院内アナウンスが流れた。
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