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あまりに痛みが強くなったので、以前に日出雄が診てもらった大病院で検査を受けた。
肝臓ガンだった。
肝臓は沈黙の臓器と呼ばれるほど症状は出てこない。
痛みは他の臓器を圧迫して起こるものだ。かなり進行しているといえる。
すぐに入院を勧められたが、ここでは手術ができない可能性がある。
家からさらに遠いけれど、肝臓ガンの治療で高名な大学病院を紹介してもらった。
入院後、みるみるうちに頬はこけ、目はくぼみ、体も幾分か小さくなっていた。
大学病院の無機質なベッドで横たわる姿を見た日出雄は、別人になるまで気が付かなかった自分を恥じた。
毎日顔を合わせ、毎日食事をし、毎日会話をし、毎日、毎日、毎日、香を見ていたはずなのに、一体何を見てきたのか。自分のちっぽけな心の隙間を、それも自分自身で何かも分からないものの為、見逃してしまっていたのか。
それからは病室に付きっきりとなった。
会社へは電話連絡はするものの、出社することなく任せきりにした。
香が好きな白い百合の花を病室いっぱいに並べた。
まるで葬式のようだと陰口をたたかれた。
新婚当時の思い出をありったけ聞かせた。
日出雄の話に頷き微笑むが、声が擦れて会話はできなかった。
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