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鮮やかな光が差し込む街外れの喫茶店、窓際のテーブルに中年男性二人が向かい合っている。
ジョギング終わりの夫婦だろうか、広いとは言えない店内には、男達の他にも二組の客がいる。
店の前にあるポプラの街路樹の根元で小スズメが遊んでいる。
店内にはイギリスの蚤の市で仕入れたという調度品が並んでいる。
「それで刑事さん、私は何の罪になるのですか。」
男は落ち着いた口調で話す。
その頬はこけ、目元に疲れが見える。髪はボサボサで、着ているスーツは一目で安物と分かるものである。
男は木製のアンティーク調の椅子に軽くもたれかかり、正面の男を見つめている。
「言うまでもない、立派な詐欺罪だな。」
刑事と呼ばれた男は、できる限り淡々とした口調で語ったが、少ししわがれた声からは、品とは無縁であることを窺わせた。
その髪は白髪が入り混じっているものの、その目つきは鋭く、正面の男を睨みつけているようだ。
また、正面の男とは対照的に、着ているスーツは一目で上物であると分かるが、長年着ていると見え、まさに一張羅といったところだろうか。
「詐欺だなんてとんでもない。私はいのちをつくってあげただけですよ。」
男は刑事の顔を見ず、音を立てずにコーヒーを口にした。
その苦味は薄く、あとから強い酸味がくる。この店の老店主こだわりのブレンドコーヒーだが、客のほとんどがコーヒー目当てではない。
単純に早朝から開いている店が近所ではここだけだからである。
老店主もそのことを充分に分かっていて、分かる人にだけ飲んでもらいたいと思ってはいるが、生活がある以上は口に出せずにいる。
「いのちをつくっただと。」
刑事は下から睨みつけるようにコーヒーを口にした。その瞬間に少しだけ顔を歪めたが、すぐにまた元の顔に戻っていた。
どうやら思った以上にコーヒーが熱かったようだ。
いやむしろ、相手に釣られて自分が猫舌だということを忘れてしまっていた。
ヒリヒリとしびれるように痛む舌を上あごに押し付けて、何事もなかったように振る舞っている。
「いのちがつくれるわけがないだろう、何よりアンタが良く分かっている筈だ。」
刑事は内ポケットから黒いカバーの手帳を取り出した。そして中指を軽く舐めると、パラパラとめくりだした
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