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近くにある小学校の子供たちが、社会科見学で香の勤める企業にやってきた時のこと。
まだまだ幼さが前面にでている三年生たちがふざけながら小走りで受付の前を通り過ぎた。
その一人の男の子が友達に押されて列をはみ出し、慌てて体勢を立て直そうとしたところ、ワックスの良く効いた人造大理石の床に足を取られて転倒してしまった。
たまたま近くにいた日出雄は、すぐさま男の子を抱きかかえると、軽々と頭の上に放り投げるように抱え上げた。
そしてしっかと受けとめて、そっとやさしく床に立たせた。
「びっくりしたな、床で滑ったらおじさんのあたまの上までふっとんじゃって。大きな会社の床は一味ちがうな。」
そう言いながら、腰を屈めて男の子と目線を合わせ、頭をなでながら満面の笑みを投げかけた。
男の子は目を丸くしていたが、すぐに我にかえると笑い返した。
「すっげぇ、今オレ飛んじゃったよ。」
男の子は前のめりで、もう一度やってほしそうにしている。
「どこか打ちつけたりしてないか。痛いところとか。」
「おしりを打ったけど、もうふっとんだ。」
日出雄は再度笑みをうかべ、男の子を高く抱え上げた。
「なんだ、ずるいぞ、おれたちも。」
男の子の友達だろうか、五人の子供たちが日出雄を取り囲んだ。
「ようし、順番だぞ。」
日出雄は次々と子供たちを抱え上げた。そして四人目を抱え上げたとき、眼鏡をかけた壮年の男性が駆け寄ってきた。
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