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でも、やはりそれ以上に冬馬への長年の思いは断ち切れなかった。
冬馬に、あんなに仲が良かったのにどうしたんだと聞かれた。
いい加減気づけよ、この鈍感男。
知ってても、私の気持ちに答えられないからとぼけているのかもね。
どうあがいても、冬馬の気持ちは優香にあるのだ。
やはり優香だけは許せない。
また優香への憎しみが沸々とわきあがってきた。
いつの間にか誘われるように、祭りの人ごみの中をぼんやりと歩いていた。
すると、煌々とした屋台の中に、他の屋台よりも明らかに薄暗い店が佇んでいた。
そこには、男とも女とも若いとも老いてるともわからない店主が座っていて、店先には真っ白な卵が所狭しと並んでいた。
「おや?お嬢ちゃんは、この店が見えるんだね?」
その店の店主は不思議なことを言ってきた。
「見えます。どういうことですか?」
みなみは、怪訝に思い訊ねた。
「お嬢ちゃんは、第四の色を見ることのできる瞳を持っていると見受けた。」
「第四の色?」
「そう、第四の色。世の中の色が、赤、青、黄色で出来てるってことは知っているだろう?」
「ええ。三原色」
「ごくまれに、その色以外の色を見ることができる人間がいるのさ。つまり、この店は、その第四の色で出来ているのさ。かくいうアタシもね。」
「そんなバカな。」
みなみはからかわれているのだと思って、その場を去ろうとした。
すると店主は卵を差し出してきたのだ。
「持ってお行き。これは、夜の卵。願いを叶えてくれる卵だよ。御代はいらないよ。ただし、タダではないけどね?」
そう言うと店主はニヤリと不気味に笑った。
もうみなみはどうでも良くなり、その場を早く去りたくて、卵を受け取った。
みなみは卵を弄びながら、呟いた。
「夜の卵、ねえ。願いなんて、叶うはずないじゃん。」
その時、みなみの記憶の底から、以前本で読んだ知識が浮かび上がってきた。
願いは叶わないかもしれないけど、卵のおまじないなら知ってる。
それは、相手に呪いをかけること。
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