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優香は祭りの準備を始めた屋台を見つめていた。
毎年、みなみとおそろいの浴衣で出掛けたっけ。
思い出して優香は、涙ぐんでいた。
みなみに嫌われた。死ぬ理由はそれだけで十分だ。
私の好きな人は、みなみだ。
こんな気持ち、言えるわけがない。
自分でも異常だとわかっている。女が女に恋をするなんて。
自分でもその気持ちに気付いた時には戸惑った。
優香はその気持ちは一生、自分の中にしまって墓場まで持っていくつもりだった。
それが、優香がみなみの側にずっと居られる条件のような気がしていたから。
でも、みなみのから嫌われた今は、もう生きる意味がない。
まだ夕暮れというのに、立ち並ぶ露店の中に、薄暗い店がぽつんと見えた。
優香が目をこらすと、男とも女とも若いとも老いてるともわからない店主がこちらに気付いて手招きをした。
「お嬢ちゃん、この店が見えるんだねえ。」
不思議なことを言う店主だ。
「お嬢ちゃんは、第四の色を見ることができる瞳を持つ者と見受けた。」
「第四の色?そう、第四の色。この世の色は三原色、赤、青、黄色で出来てるだろう?ごくまれに、人にはそれ以外の色を見ることのできる人間がいるのさ。それがアンタさ。この店はそんな色でできている。かくいうアタシもね。」
「この世の色じゃないということは、あの世の色なのかしら?」
「さあね。それはご想像に任せるよ。」
店主はニヤリと笑った。そして、真っ白な卵を手渡してきた。
「今日は特別にそれをあげるよ。持ってお行き。夜の卵さ。」
「夜の卵?」
「そう、願いをかなえてくれる卵さ。御代はいらないよ。ただし、タダとは言わないけどね?」
御代は要らないのにタダではないとはどういうことなのだろう。
優香は卵を受け取ると礼を言った。
「どう使うかはアンタしだいさ。」
そう言うとまた店主はニヤリと笑った。
卵なんかで願いが叶うはずないじゃない。
私はただもう生きる希望が持てない。
せめて願うなら、来世はみなみとずっと居られますように。
そう願いを込めて卵を胸に抱いた。
そして、公衆トイレのドア枠に縄を輪にして通し、首をかけ、椅子を蹴った。
すると卵が胸で割れ、中から闇が渦巻いて優香を飲み込んでいった。
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