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────いつの間に寝てしまったのだろう。私が目を開けると、そこには見知らぬ少年が笑んでいた。
「これって、どういうことだと思う?」
無邪気な問い掛けに眉根を寄せると、少年はなおもおかしがって質問を重ねた。
「そもそも、なにが始まりでこうなったんだと思う?」
そんなことを聞かれても答えられるはずがない。この光景に行き着く始まりなど、私の頭ではとても辿りきれない。
自分がなにかの代償として奪われるなんて、考えも及ばないことだったのだから。────
「そんなつもりじゃなかったの……本当よ?あなたをこんなふうにするつもりなんてなかった!お願いよ、信じて……」
妻が、目の前で泣き崩れている。
一体どうしたというのだ……私は彼女にワケを聞こうと手を伸ばした。まずは抱き締めて、落ち着かせてやりたいと思ったのだ。話はそれからだと。
だが、ここでおかしなことが起きた。いつまで経っても、私の両手が視界に入ってこないのだ。これでは、その先のかわいそうな妻に届かないではないかと、困惑した。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
床に額をつけるような土下座を見せる妻。そんな彼女を慰めたのは、私ではなく一人の少年だった。透き通るような肌に、フワフワのくせっ毛……なにかのお話に出てきそうな、見目のよい子だ。
初めて見る顔だな、近所の子だろうか。少年は妻の横に膝をつくと、顔を覗き込むようにして言った。
「どうして謝るの?そんな必要ないじゃない。寧ろ怒ったっていいと思うけど」
私には、その意味がとんとわからなかった。
「でも……でもお……」
妻は、子供のように両手で交互に涙を拭っている。
「だって彼は嘘を吐いていたんでしょう?しかもそれは重大だ。君は、彼の一番じゃなかったんだからさ」
少年の言葉に、妻は一層声を大きくして泣いた。
『おい、おまえ!さっきから聞いていればなんだ、ワケのわからないことを言って妻を泣かせて……子供だからって許さないぞ!』
堪らず発した大声での抗議だというのに、少年はまったく驚く様子がなかった。そして、どういうわけか一緒に居る妻にはこの声が聞こえていないようなのだ。
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