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「高森先生、精が出ますね」
「あ、教頭」
教頭は後ろに手を組んでにっこりと笑いながらやってきた。俺は「そんなことないですよ」と笑顔を作る。
「川崎亜矢ですか…」
「ええ」
「彼女は選抜試験ではAが必要でしたっけ?」
「…ええ」
伏し目がちに答えると、教頭は俺の肩を叩いて「頼みましたよ」とぽつりと呟き、くるりと背を向けて教頭室に戻っていった。
俺はその姿を一瞥してから、複雑な表情で手元にある亜矢の解答用紙に目を落とした。
3年E組 川崎亜矢 補修テスト判定結果C
…まだ間に合う。
…いや、絶対に間に合わせなきゃいけないんだ。
俺は誰にも悟られないように口を噤んだまま、拳を強く握りしめた。
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