小児メンタルクリニック

　子供メインのメンタルクリニックで事務をしている。
　鬱や発達障害の患者が毎日たくさん訪れるが、何かしら問題があるからこういう所に来る訳で、どの子供もぱっと見ただけで言動がおかしいのがよく判る。
　暴れる、奇声を発する、他者を攻撃する、ともかく動き回る、逆に床に倒れてそれっきり、などなどなど。
　そういう子供を連れてくる親は、みんな困り果てた顔をしているけれど、奥にうんざりが透けて見える。
　でも安心してほしい。その悩みは、ここのクリニックにかかれば総て解消。どこのお子さんも生まれ変わったようにいい子になること請け合いだ。
　…実際、生まれ変わるみたいなもんだしな。
　通院は月に四回。その間に、診察を受けた子供は魂を少しずつ引き出され、代わりに別人格の魂を少しずつ注入される。そうやって最終日を迎える時には、子供は全員、穏やかな別人になっているという寸法だ。
　本体の記憶は残ってるから、その後の生活に支障はない。というか、元がメンタルクリニックにかからなきゃいけないような状態だから、多少性格が変わっても、落ち着いたんだと周りは捉え、不信感など誰も持たない。
　ちなみに注入する魂は、以前にここで抜き取られた別の子供の魂を強制的に躾直したものなんだが、その躾がとにかく厳しい。だからこそ、新しい体に宿されると、規律正しい平穏な暮らしがどれだけ素晴らしいものなのかに気づき、人並の日常生活を送れるようになるのだ。…もちろん、注入後に無茶をしたら強制送還されるっていうリスクもあるから、みんな多少窮屈な思いをすることがあっても、再度の躾し直しよりはマシと、新しい体で穏やかに生きていく訳だけど。
　俺も昔はあっち側だったから、ホント、親にここへ連れてこられる子供の気持ちはよく判るよ。