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「だからさ。私は許せなかった。悟さんのこと。大好きなお父さんとお母さんを殺した悟さんを許すことなんてできるわけないでしょ?」
俺に同意を求めるように聞いてくる。俺は何も答えることができなかった。
「なんで、結婚なんてしたんだ」
俺が質問を投げかけると妹は困ったような顔をして言った。
「人間が本当に絶望すると時ってどんな時だと思う? 人間は希望がないと生きていけないってよく言うけど私はそれは違うと思う。人間は希望がないと絶望する気力すらなくなるんだ。だから、本当に絶望させたいなら、希望を持たせるべきなんだよ。人は希望があるからこそ絶望するんだから。だから、私は悟さんを許した。許したフリをした。許して悟さんを愛して、二人の宝物でもある子供を作って幸せな家庭を作った。……それを壊すために。ね、聞いてる? 悟さん?」
妹は悟の顔をゆっくりと持ち上げて視線を合わせる。悟は口をぱくぱくと動かして何かを言おうとして言葉にならず、瞳から涙を流している。
「まだ、死なないでね。悟さん。最後に一つ言わせて。……私はね。一度も一瞬たりともあなたを許したことなんてないんだよ。あなたのことが憎くて憎くてしかたがなかったんだよ? あなたは幸せな家庭を築けていたつもりだったのかもしれないけど、それはただのお膳立てされた虚構だったんだよ? ね。大事なものを大切な家族を突然奪われた、私の気持ち今なら分かってくれるよね?」
妹が悟にゆっくり子供に言い聞かせるように言葉を投げかける。悟は。大粒の涙を流しながらただ口をわずかに動かして、事切れた。瞳は黒く濁り。流した涙が頬を濡らしていた。
「なぁ。お前は本当にこんなことがしたくて結婚したのか?」
「そうだよ。私はこの復讐の為だけに生きてきたんだから」
「お前は、本当に悟が憎かったのか?」
俺の質問に妹はうなずく。
「そうだよ。憎くて憎くてたまらなかった」
「じゃあ、なんで泣いているんだよ?」
妹は瞳から大粒の涙をとめどなく流しながら笑って言った。
「この世で一番憎くて一番愛していたからだよ。お兄ちゃん」
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