第1章

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 その犯人の男。俺たちの両親を殺した人物は見たことのある顔だった。……なにせ。妹の旦那だったのだから。 犯人捜しを手伝ってくれていた人。今は刑事になった小学校からの友人にもう一度確認を取った。本当にあの男。倉橋悟が俺たちの両親を殺した人物なのかどうか。友人は言った。 「当時現場に残っていた犯人の皮膚の遺伝子情報や状況証拠からまず間違いない。警察としては正直今すぐ逮捕だってできる。ただ。お前に知ってほしくて確認してこいと言った。そしてあの男をどうするかはお前が決めろ」  友人はそう言った。刑事である友人からしてみれば今すぐ逮捕するべきなのだろう。しかし、俺の為に待ってくれている。俺が復讐をしたいというなら止めないと友人は言っているのだ。刑事としては失格だろう。でも俺は感謝していた。友人は俺のこと本当に考えた上でそういう態度をとってくれているのだ。復讐を止めはしないが、できれば俺が手を汚すことはやめてくれとも友人は言ってくれていたのだから。しかし、また事情は変わってしまった。倉橋に復讐をしても逮捕しても、妹の人生は無茶苦茶になってしまうだろう。まだ小さい子供もいるのだ。俺は妹に電話をかけた。 「はーい。倉橋です」  明るい声で妹が電話に出た。 「俺だ」 「詐欺?」  くすくすと笑いながら妹が言う。 「拓哉だよ」 「分かってるよ。お兄ちゃん。で、今日はどうしたの? 電話かけてくるなんて珍しいね」 「いや、最近どうかなと思ってな」  ははと小さく笑う声が聞こえてきた。 「大変だよー。悪魔の二歳とはよく言ったものだよね。あちこち歩き回るし口に入れようとするし目が離せないよ」  言いながらどこか楽し気だ。 「そうか。大変だな」 「たまにはお兄ちゃんも子守手伝ってくれてもいいんだよ? 有馬はお兄ちゃんのことかなりお気に入りみたいだし」  確かに弟の方の有馬はずいぶん俺になついてくれていた。 「いや、子供は苦手なんだ」 「確かにお兄ちゃんが子供相手にやさしくしているのは想像できないかも」  また笑う。妹は本当によく笑う。その笑顔に何度も俺は救われてきた。 「悟君とは上手く言っているか?」  声色には気を付けたはずだが、裏返ったりしていなかっただろうか? 「何? どうしたの? 上手くやっているよ? 離婚の心配はありませんから」 「……そうか」 「本当にどうしたの?」  妹が心配そうな声を出す。
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