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半円を描くようにベンチが点在するそこには、
連休だというのに、たった一組の姿しかなかった。
そして俺は、その先客カップルを避け、
彼らから少し離れたベンチに彼女をいざなう。
そよぐ柔らかな風は冷たくもぬるくもなく心地よく、
目の前の景色は、都会とは違い、広く、遠く広がっていた。
そんな、少しだけ秋を感じさせる風に髪をわずかに靡かせ、
彼女は真っ直ぐに目を向ける。
そして、ポツンと聞かれた。
「潤平さんも、ここでデートをしたんですか?」
思いも寄らない事を聞かれて、俺は思わず彼女に目を向けた。
そして、小さく声をあげて笑ってしまった。
「いやいや。俺、全然モテもしなかったんで、
彼女なんかいませんでしたから。
だからここも、男の友達と来て、幸せそうなカップルを遠目で眺めて
みんなで指咥えてたもんですよ」
「でも、楽しそう。それに、ここってすごく穏やかな所ですね」
「まぁ、つぐみさんの育った場所に比べたら、のんびりしてますね」
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