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俺は、別に、この故郷が嫌だったわけでもないし、
大都会への強い憧れがあったわけでもなかった。
だが久々に帰ってきた今も、懐かしさはあれども特別な感慨は抱いていない。
しかし、彼女は違ったようだ。
「人や建物ばかりじゃなくて、こうして緑があって、
ゆったりと暮らしの時が流れていて。
こんなステキな所で育ったから、潤平さんはとても優しいんですね」
なんとなくしみじみとした声で言われ、
照れるよりも、俺はちょっと意外だった。
だが、そんな俺の様子に気付かないのか、
柔らかな眼差しを眼下に向けたまま彼女は続ける。
「潤平さんのご実家は、どこですか?」
俺は、右の方向に指先を向けた。
「ここからは見えませんが、あっちですね。
でもまぁ、ここと似たような場所ですよ」
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