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慌てた顔が見たかった。
すこしでも動揺してくれたらと夢を見ていたんだ。
数々の女を手ごめにしては、飽きたら捨てていく。
そんなとんでもない悪行の噂が絶えないルームメイトを驚かせようって。
ドレスや靴は、仕立屋の友人が準備してくれた。
低身長、童顔、女顔だとからかわれながら十八年間過ごしてきた僕アルベルト=F=フラスキーは、いつになく緊張していた。
華やかな貴族の社交の場。
月夜のいざないから始まる舞踏パーティは、今宵も多くの紳士淑女を引き寄せる。
パーティホールは、目を見はるばかりの豪華さだった。
宝石の輝きを放つシャンデリアや壁にかけられた著名人の絵画、上質な獣毛の絨毯。
ぴかぴかに磨きあげられたウッドフロアの色艶は、さすがは中央貴族社会屈指の名家アシェルト家。
今宵のパーティを主催するアシェルト家は、中央貴族のなかでも高位貴族。
僕のターゲットであるルームメイト、セインはその子息だった。
吊り下がるシャンデリアのひかりを受けて輝きを増す金の髪。
燃えるようなあかい瞳は招待客らの心をたやすく射止めるだろう魅力的な光彩を放っていた。
喉の奥がチリチリ痛んだ。
セインは女性を片っ端から味見しては捨てていく。
そんなセインとワルツを躍ってみたかった。
それだけだったんだ。
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