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※ ※ ※ ※
「ん……っ!?」
キスされていた。
それも親愛の口づけのように軽くふれ合うものではなくて奥底に眠る昂りを呼び覚ますような、深い、深い口づけ。
生き物のようにうねるモノが、宝を探り当てるかのようにねっとり、執拗に動きまわる感覚。
甘い刺激を待ち望んでいたかのように身体は正直に反応し、欲望が膨らんでいく。
背にひやりとしたつめたい壁の感触がふれた。
瞑っていた目を開けると、ギラギラと熱情をたぎらせたレッドアイと目が合った。
逃がさない──そう言われている気がした。
まずい!
そうは思っても、身体は思うように動けない。
パーティホールから一歩踏み出したアルコーブ。
絵画が掛けられ、奥に巧妙に隠された小さな密室は、絵画を着飾るドレープカーテンが間仕切りとなって完全な死角になっていた。
カーテンの奥から、目当てであるセインの失踪にざわめく貴婦人らの残念がる声が耳に届く。
逃げようともがこうとするも、両手はセインによって指ごと壁に押しつけられてしまっていた。
「ん──っ!!」
遠慮がちに触れていた舌の動きが激しさをますと、下半身が勃ちあがってしまっている感覚をおぼえてしまっていた。
っ、これ以上は──
駆けめぐる浮遊感、せりあがる劣情は
“そういう経験”がなくとも僕が日々味わっている“ソレ”で。
「!!──はぁ……っ」
苦しさに身をよじったところで、ようやく唇が解放された。
せき止められていた呼吸がもどってくる。
おおきく息を吸いこんで呼吸をととのえようと肩を上下させる。
だめだ……もうなにも考えられない。
力が入らない……!
逃げる気力すら失って、不覚にもセインの胸に顔から倒れこんでしまった。
頭がガンガン揺れてるのに、
身体の芯は物足りなさで疼いていた。
僕を解放したばかりのセインの手は、
しっかりと僕を抱き留め、
今度は髪を梳いてやさしくなではじめる。
僕の地毛ではない、にせものの銀色の髪を。
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