『夏が来る前に終わった lovers』♪

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聞き慣れた曲に意識が動いた。 あの頃良く聞いていた曲。 『夏が来る前に終わった lovers』 さすがにアナログとは違って、綺麗に聞こえた。 ふうぅと大きなため息がこぼれた。 十年前、こんな風にして一日を無駄にした日が懐かしくなった。 そこそこの勉強をして、そこそこ遊んだ。そこそこ恋もして…… たくさんの夢と希望を、体一杯に浴びていた日々だ。 しかし数え切れない夢や希望も、全てかなえられるはずもない。 十年の間に数え切れないほどの選択を強いられた。時が経つにつれ、俺に残された可能性も、まるで砂時計のように減少していった。 そして得られた…というより、残った結果が今の俺だ。 何か持っているかと、問われれば答えに窮するだろう。 そういえば、ウララカは今頃どうしているだろうか。俺に人を好きになる素晴らしさ、人に好かれる素晴らしさを教えてくれた女性。 〈たぶん、私からは別れることないよ〉 有名私立大学に合格しても、三流の俺にそう言ったウララカ。 それなのに、交換留学でロンドンに行くことになった彼女に、俺から別れを切り出した。 今になって思えば、半分は嫉妬だったと分析できるが、当時はウララカのためだとか、変なことばかりを言っていた。 その時以来、連絡はおたがい取ってない。 きっと、今では世界のマーケットを相手に多忙の日々を過ごしていることだろう。 もう逢えないのか・・・・・・ そうだ。今はアプリを使えば世界中でこのラジオを聴ける。東京に居なくとも、同じ番組が聴けるのだ。 ならば、絶対に彼女が聴いてないとも言い切れないではないか。 もしかしたらこの曲を聴いていて、俺のことを思い出したかもしれない。 俺は照れ笑いを浮かべた。  ガキじゃあるまいし、なんて想像力豊かなんだ。 さて、そろそろ戻って企画書を練り直そう。 俺はレシーバーを外して、オフィスに戻った。
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