13人が本棚に入れています
本棚に追加
聞き慣れた曲に意識が動いた。
あの頃良く聞いていた曲。
『夏が来る前に終わった lovers』
さすがにアナログとは違って、綺麗に聞こえた。
ふうぅと大きなため息がこぼれた。
十年前、こんな風にして一日を無駄にした日が懐かしくなった。
そこそこの勉強をして、そこそこ遊んだ。そこそこ恋もして……
たくさんの夢と希望を、体一杯に浴びていた日々だ。
しかし数え切れない夢や希望も、全てかなえられるはずもない。
十年の間に数え切れないほどの選択を強いられた。時が経つにつれ、俺に残された可能性も、まるで砂時計のように減少していった。
そして得られた…というより、残った結果が今の俺だ。
何か持っているかと、問われれば答えに窮するだろう。
そういえば、ウララカは今頃どうしているだろうか。俺に人を好きになる素晴らしさ、人に好かれる素晴らしさを教えてくれた女性。
〈たぶん、私からは別れることないよ〉
有名私立大学に合格しても、三流の俺にそう言ったウララカ。
それなのに、交換留学でロンドンに行くことになった彼女に、俺から別れを切り出した。
今になって思えば、半分は嫉妬だったと分析できるが、当時はウララカのためだとか、変なことばかりを言っていた。
その時以来、連絡はおたがい取ってない。
きっと、今では世界のマーケットを相手に多忙の日々を過ごしていることだろう。
もう逢えないのか・・・・・・
そうだ。今はアプリを使えば世界中でこのラジオを聴ける。東京に居なくとも、同じ番組が聴けるのだ。
ならば、絶対に彼女が聴いてないとも言い切れないではないか。
もしかしたらこの曲を聴いていて、俺のことを思い出したかもしれない。
俺は照れ笑いを浮かべた。
ガキじゃあるまいし、なんて想像力豊かなんだ。
さて、そろそろ戻って企画書を練り直そう。
俺はレシーバーを外して、オフィスに戻った。
最初のコメントを投稿しよう!