第1章

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 「だから……餡子の匂いがして……」  「くそっ!」  どうしたんだろう? 奏さんって、普段は無口で、感情的になったりしない人なのに……。  「あっ!」  「何か思い出したのか?」  「気付いたら、団子屋さんの前だった」  「…………」  奏さん、怒りに震えてる。ヤバイわ、もう限界かも!  「奏さん、待って」  「あ……、かなたさん……」  「帰ってきたのか」  「奏さん、ごめんなさい。ユーゴはちょっと変わってるだけで、悪気があるわけじゃないのよ」  「聞かれていたのか」  うーん。もうすっかりいつもの奏さんよね。  ちょっと何を考えているのかわからなくて怖いけど、でも、冷静で、落ち着いてるもの。  「ごめんなさい。立ち聞きするつもりはなかったんだけど」  「いや。別にいい」  「待ってください」  「なんだ?」  「えっと、もしよかったら、上がってお茶でも飲んでいきませんか?」  せっかく来てくれたんだし、ちょっとぐらいお話してみたいな。美琴ちゃん家ぬ遊びにいっても、挨拶するぐらいであまりお話したことないし。  「お茶より……ジュースがいい」  「ジュースも用意してあげるわ。だから、先に家で待ってて」  「ああ」  いそいそと部屋に帰っていくユーゴの背中に、奏さんがちらっと目をやる。 まだ怒ってるのかな……? 突き刺さりそうな鋭い目付きをしてる。  「奏さんもどうですか?」  「いらん」  「えっと、でも、魔物がどうやってこの世界に来たのか知りたいんですよね? フロリアに聞けばもう少しわかるかもしれません」  「いや、いい」  「そうですか……。奏さんがそう言うんならいいですけど……」  うーん。あんなに切羽詰ってそうだったのに、本当にいいのかな?  「ああ。気にするな」  「えっと、でも、奏さんはどうしてユーゴたちがこっちの世界に来た方法なんか、知りたかったんですか?」  「ちょっとな」  「奏さんも、聖君みたいにエクソシストとかに興味があるんですか?」  もしそうだったら、ちょっと意外な感じ。だけど、じゃあ、何に興味があるかって聞かれたら、よくわからないんだけど……。  「違う」  「そうですか」  「邪魔した」  「あ、はい……」  奏さん、どうしたんだろ? 明日、美琴ちゃんに聞いてみようかな。
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