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もう、しれっと言いながら肩を抱くなんて、まったく油断も隙もなんだから。
「おやおや。つれないね」
「苺ちょうだい」
「きゃあ」
ちょ、ちょっと、ユーゴ! 苺が欲しいからって、食べかけのを取ろうとするのは止めてよ。
「あ、てめえ。今、どさくさにまぎれて、キスしようとしただろ?」
「…………」
「ユーゴ。お前、絶対わざとだろ。ずるいぞ」
うん。私もロイの意見に賛成。
賛成だけどね、ロイ。抱きつくのはダメよ。
「こら、ロイ。抜け駆けはなしの約束だろう?」
抜け駆けのダメだけど、だからって、対抗して抱き寄せようとするのもね。
「苺……」
うわ~ん。ユーゴ。だから、後ろからいきなり卑怯よ~。
「3人とも……」
「うっ……」
「さて、ユーゴ。僕は甘いものより、甘い唇の方が好きだから、これはお前にやるよ」
「うん。あっちでテレビ見ながら食べてくる」
「俺も、俺も。今やってるアニメ、すっげえ面白いんだよなあ」
あらら。3人とも行っちゃった。
おばあちゃんにもらったペンダントの威力ってすごいのねえ。
「さ~て。みんながおとなしくしてるうちに、家のこと、片付けちゃおっと」
はあ……。
美琴ちゃんのおばさま、私は、ある日いきなり3人の子持ちになった気分です……。
天気が良かったのでふらりと公園に寄ってみたら、奏さんの姿が見えた。
噴水の傍に立って噴水を見つめている。
いつものように誰も寄せ付けないオーラをまとったまま。でも、私はなんだかその姿が妙に気になり、近寄って声をかけることにした。
「こんにちわ、奏さん」
噴水を見つめていた奏さんは、首を少し動かしてちらりと私を見る。
「なんだ、お前か」
「何してたんですか?」
「……お前には関係のないことだ」
奏さんはそう言って噴水の縁に座り込み、また噴水の水面をじっと見つめている。
奏さんはいつも仏頂面だけど、なんだか今日は悩み事があるようなちょっと憂い顔に見える。……どうかしたのかな。
心配になってそのまま帰ることも忍びなく、何も言わずに私もちょっと距離をあけて側に座った。
水面を凝視する奏さんを見つめる。秋風が奏さんの無造作な髪をなでる。
風の合間に奏さんが呟いた。
「人は死んだらどこに行くんだろうか……」
私に問うたわけではない……と思う。
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