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「そんな……」
智哉君がすごく私のことを心配してくれたのは知ってたけど、奏さんに直接そんなことまで言ってたんだ。
「奏さんは……これ以上私と付き合っているのは負担ですか?」
そう問いかけたけれど、本当に知りかかったのは奏さんの気持ちじゃなくて、私自身の気持ち。
私は、奏さんと付き合うのがつらいかな?
「……それはお前の方だ」
「私は……」
やっぱり、奏さんと別れたくない。ずっと一緒にいたいよ。でも、それは叶えられない、望みで……。
もすぐ……奏さんの誕生日が来たら、奏さんはいなくなってしまう。そして、私も奏さんのことを忘れてしまう……。
「お前の望むようにすればいい。俺は……もう慣れている」
「慣れている?」
「もう何回となく繰り返してきた。それまでの人生の終わりを迎えることも、人々から忘れられることも。だから、慣れている」
奏さん、そんなに苦しそうな顔してたら、本心から平気だって思ってるわけじゃないって、すぐわかっちゃうのに……。
「どうせ近いうちに忘れてしまう相手だ。お前の望むようにすればいい。何をしても、お前が後悔することなどないのだから」
「そんな言い方しないでください」
そんな投げやりな言い方、悲しすぎる。
「……すまない」
「どうするのが1番いいのか、2人で考えてみませんか?」
そう言ってみたけど、何を考えればいいのかなんてわかってなかった。
「そうだな……」
奏さんの返事を最後に、そのまま沈黙が続く。
空は信じられないほど青いのに、この部屋の空気だけどんより曇り空みたいに重くなっていく。
「…………」
奏さんは押し殺したように溜息をついた。
唇を噛みしめて、自分の足元を見つめている。
そんなつらそうな奏さんを、少しでも楽にしてあげたかった。
何もかもを拒むように強張ってる背中に、手を伸ばしそうになる。だけど、直前で、その手を握り締める。
抱きしめて、慰めてあげたくなる気持ちを必死で押しとどめた。
そうじゃない。
今、しなければならないのは、一時の気休めや同情じゃない。
それはきっと、考えたくないことから逃げよとしてるだけだから……。
私が、この辛さから逃れたいだけだから……。 でも……奏さんがいなくなるなんて、信じたくない。
考えたくないのよ……。
「……私、考えるのが怖いんです」
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