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「この先どうしたらいいのか考えることが……」
「そうか」
奏さんは、どうしてかって聞かなかったけど、私は続けた。
1回言葉にしてしまったら、もう自分独りで抱えてるのには重すぎるって気づいちゃったから。
「この先のことを考えたら、奏さんが消えちゃうってこと、どうしても考えなくちゃいけなくて」
「……」
奏さんからの返事はなかった。
ただきつく唇を噛み締めていた。
「あ……ごめんなさい。奏さんの方がよっぽど怖いのに……」
「気にするな。さっきも言ったとおり、俺は慣れているから平気だ」
奏さんはそう言ってくれたけど、平気なわけない……。 だって、奏さんが消えた後、私は忘れてしまえるけど、奏さんは何もかも覚えてるんだもん。
どこでどうやって生まれ変わるのかわからないけど、何もかも忘れちゃった私と、いつか出会ってしまうかもしれなくて……。
そんなの私だったら辛くて、耐えられない。
「私……誰よりも、何よりも奏さんが大好きです」
自分でも驚くほど素直にそう言って、奏さんを抱き締めていた。
「お前……」
戸惑った奏さんの腕が宙を泳ぐ。
でも、私は奏さんをしっかりと抱き締めて離さなかった。
頭の中の記憶は消えてしまっても、このぬくもりだけは、体が覚えていてくるかもしれないって思いながら……。
どのくらいそうやって抱き合っていた後か。
「……真柴奏としての人生の最後にお前と出会えて良かったと、俺は思っている」
奏さんがそう呟いた。
人生の最後……。
悲しい言葉だけど、それが現実だから、私は言葉が出てこない。
「本当だ」
「あっ……」
奏さんは一瞬かすめるだけのキスをして、私の腕を振り解いた。
「俺はそろそろ帰る」
「また明日、会えますよね?」
「ああ。だから、ここで別れよう。離れがたくなる前に」
私が黙って頷くと、奏さんは小さく笑って部屋から出ていった。
それを見送って、思わず唇を指で抑えてしまう。
そこには、まだ奏さんの唇のぬくもりが残っている気がした。
「……忘れたくない」
私の呟きに答えるように、どこか遠くでかすかに小鳥の鳴き声が聞こえた――
金曜日の午後。
空は気持ちよく晴れて、海の波がキラキラ光ってる。
「今日の海、すごく綺麗ですね」
「そうだな」
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