第2章

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 「この先どうしたらいいのか考えることが……」  「そうか」  奏さんは、どうしてかって聞かなかったけど、私は続けた。  1回言葉にしてしまったら、もう自分独りで抱えてるのには重すぎるって気づいちゃったから。  「この先のことを考えたら、奏さんが消えちゃうってこと、どうしても考えなくちゃいけなくて」  「……」  奏さんからの返事はなかった。  ただきつく唇を噛み締めていた。  「あ……ごめんなさい。奏さんの方がよっぽど怖いのに……」  「気にするな。さっきも言ったとおり、俺は慣れているから平気だ」  奏さんはそう言ってくれたけど、平気なわけない……。 だって、奏さんが消えた後、私は忘れてしまえるけど、奏さんは何もかも覚えてるんだもん。  どこでどうやって生まれ変わるのかわからないけど、何もかも忘れちゃった私と、いつか出会ってしまうかもしれなくて……。  そんなの私だったら辛くて、耐えられない。  「私……誰よりも、何よりも奏さんが大好きです」  自分でも驚くほど素直にそう言って、奏さんを抱き締めていた。  「お前……」  戸惑った奏さんの腕が宙を泳ぐ。  でも、私は奏さんをしっかりと抱き締めて離さなかった。  頭の中の記憶は消えてしまっても、このぬくもりだけは、体が覚えていてくるかもしれないって思いながら……。  どのくらいそうやって抱き合っていた後か。  「……真柴奏としての人生の最後にお前と出会えて良かったと、俺は思っている」  奏さんがそう呟いた。  人生の最後……。  悲しい言葉だけど、それが現実だから、私は言葉が出てこない。  「本当だ」  「あっ……」  奏さんは一瞬かすめるだけのキスをして、私の腕を振り解いた。  「俺はそろそろ帰る」  「また明日、会えますよね?」  「ああ。だから、ここで別れよう。離れがたくなる前に」  私が黙って頷くと、奏さんは小さく笑って部屋から出ていった。  それを見送って、思わず唇を指で抑えてしまう。  そこには、まだ奏さんの唇のぬくもりが残っている気がした。  「……忘れたくない」  私の呟きに答えるように、どこか遠くでかすかに小鳥の鳴き声が聞こえた――  金曜日の午後。  空は気持ちよく晴れて、海の波がキラキラ光ってる。  「今日の海、すごく綺麗ですね」  「そうだな」
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