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目を細めて海を見ている奏さんは、最近では珍しいぐらい穏やかな顔をしてる。
「奏さん、海が好きなんですか?」
「そうだな。海だけはどんなに時間が経っても変わらない。例え、この街や港が変わってしまったとしても」
そうか……。
奏さんは、この港のこと、もうずっと前から知ってるんだよね。
「いや、そういう意味で言ったのではなく……単に海が好きだと……」
落ち込みかけた私を見て、奏さんは慌てたように言葉を続けてくれる。
そうよね。奏さんだって……ううん。奏さんの方がつらいんだもん。
一緒にいる時ぐらい、楽しくおしゃべりしないとね。
「海を見に来るのを日課にしようかな」
「いきなりなんだ?」
「毎日家から港まで歩いたらダイエットにもなるし。それに……」
それに……奏さんのこと忘れちゃっても、奏さんが残してくれたなにかかが残るから。
奏さんがいなくなってしまうことを当たり前に考えてるような台詞を言うのが嫌で、つい口ごもる。
「それに?」
「あっ! もしかして、奏さんは迷惑ですか? 私がここにいたら。私、おしゃべりだから、絶対話しかけちゃうと思うんです」
そうやって、とっさにごまかしたつもりだったのに……。
「そう言う問題じゃない。それより、さっきの続きを話せ」
「……」
じっと見つめられて、もうごまかしが思いつかない。
……現実は見つめないとね。
海が悲しいぐらいに綺麗だったから、つい今日みたいな幸せな日々がずっと続くって信じたくなっちゃったけど。
「奏さんがいてくれたから、私、海を見るのが好きになりそうです」
思い切って口を開いた私を、奏さんはじっと見つめた。
「だから、私、ここに海を見に来ます。そうすれば、例え、奏さんのことを忘れてしまったとしても、奏さんのくれたものが残りますから」
「俺の残しもの、か」
「どうしてそうするのかわからなくなったとしても、奏さんが教えてくれたって事実は変わりませんから」
「……そうか」
奏さんはそれだけ言って、穏やか凪いだ海に目をやった。
だから、私も黙って海を見つめていた。
こんな穏やかな時間がいつまで続けばいいと、心の中で願いながら……。
その時だった。
「すみません」
ふいに誰かが声をかけてきた。
「はい?」
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