第2章

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 僕、芸大の写真学科の学生をしてます。課題で、海をテーマにした写真を撮ってるんですが、お2人をモデルにしてもいいでしょうか?」  「えっ?」  「俺たちを?」  「はい。今までずっと歩いてきたんですけど、お2人が1番、海と一体化してるって言うか、海に自然に溶け込んでいるんです」  「えっと……?」  学生証を見せてくれたぐらいだし、悪い人じゃないと思うんだけど……。  ……写真……。  ママと写した写真が残ってたみたいに、奏さんと写した写真が残るなら、残しておきたい。  その人のことがわからなくなってしまっても、きっと最高に幸せだった思い出だけは残るはずだから。  でも、奏さんはなんて思うかな?  「俺は嫌だ」  まだ何も聞かないうちから、きっぱり断られちゃった。  「奏さん、お願い」  「写真は面倒だ」  自分が人間ではない証拠になるから。  そう言ってる気がしたけど……。  わかってて欲しがるのは我侭だってわかってる。 でも、消えない証が欲しいよ。奏さんが、確かに私をすごく、すごく幸せにしてくれたっていう――  そんなことは、何も知らない大学生さんの前じゃ言えないから、思いを込めてじっと奏さんを見つめる。  「お願い。1枚だけでいいから」  「……わかった。1枚だけだ」  そうやって奏さんが渋々OKしてくれた途端。  「よかった」  にっこり笑った私に負けないくらい嬉しそうに、大学生さんが微笑む。  「ありがとうございます! 感謝します」  「おい。そうと決まったら、さっさと撮れ」  奏さんは相変わらずの仏頂面だったけど、盛大に感謝されてまんざらでもないみたい。  「じゃあ、撮りますよ。お好きなようにポーズをとっちゃってくださいね」  と言われても、奏さんはむすっと突っ立ってるだけ。  う~ん。どうしようかな。  そうだ!  「奏さん、大好きです!」  私はカメラを睨んでる奏さんに思いっきり抱き付いた。  「なっ……」  一瞬、びっくりした奏さんだけど。  「お前という奴は」  シャッターを切った音がした瞬間、ふっと笑顔になった。  「だって、本当の本当に大好きなんです」  「……そうだな。俺も……」  言いかけて、途切れたままの言葉を、大学生さんの明るい声が引き取っていった。  
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