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僕、芸大の写真学科の学生をしてます。課題で、海をテーマにした写真を撮ってるんですが、お2人をモデルにしてもいいでしょうか?」
「えっ?」
「俺たちを?」
「はい。今までずっと歩いてきたんですけど、お2人が1番、海と一体化してるって言うか、海に自然に溶け込んでいるんです」
「えっと……?」
学生証を見せてくれたぐらいだし、悪い人じゃないと思うんだけど……。
……写真……。
ママと写した写真が残ってたみたいに、奏さんと写した写真が残るなら、残しておきたい。
その人のことがわからなくなってしまっても、きっと最高に幸せだった思い出だけは残るはずだから。
でも、奏さんはなんて思うかな?
「俺は嫌だ」
まだ何も聞かないうちから、きっぱり断られちゃった。
「奏さん、お願い」
「写真は面倒だ」
自分が人間ではない証拠になるから。
そう言ってる気がしたけど……。
わかってて欲しがるのは我侭だってわかってる。 でも、消えない証が欲しいよ。奏さんが、確かに私をすごく、すごく幸せにしてくれたっていう――
そんなことは、何も知らない大学生さんの前じゃ言えないから、思いを込めてじっと奏さんを見つめる。
「お願い。1枚だけでいいから」
「……わかった。1枚だけだ」
そうやって奏さんが渋々OKしてくれた途端。
「よかった」
にっこり笑った私に負けないくらい嬉しそうに、大学生さんが微笑む。
「ありがとうございます! 感謝します」
「おい。そうと決まったら、さっさと撮れ」
奏さんは相変わらずの仏頂面だったけど、盛大に感謝されてまんざらでもないみたい。
「じゃあ、撮りますよ。お好きなようにポーズをとっちゃってくださいね」
と言われても、奏さんはむすっと突っ立ってるだけ。
う~ん。どうしようかな。
そうだ!
「奏さん、大好きです!」
私はカメラを睨んでる奏さんに思いっきり抱き付いた。
「なっ……」
一瞬、びっくりした奏さんだけど。
「お前という奴は」
シャッターを切った音がした瞬間、ふっと笑顔になった。
「だって、本当の本当に大好きなんです」
「……そうだな。俺も……」
言いかけて、途切れたままの言葉を、大学生さんの明るい声が引き取っていった。
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