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絶望的な響きの言葉が、繰り返される偽りの人生に、奏さんがどれだけ苦しんできたか物語っていた。
「真柴奏となる前にも……何度も思った。だが、この身体は傷一つ作ることが出来ない」
前に奏さんの部屋に遊びに来た時のことを思い出す。
奏さんは、暗がりの中で、何かを確かめるように自分の指を傷つけていた。
「……唯一、俺の身体に何か出来たのは、お前のじいさんの持ち物と……ペンダントだけだった」
奏さんはとても遠くを見るような目をしていた。
「だが……お前のじいさんはもう居ない。そして、お前のペンダントでは、俺を傷つけることは出来ても、それ以上は無理だろう」
「奏さん……」
終わらせませんか?
そう言いかけた言葉が、喉につまる。
やっぱり怖かった。悲しかった。
奏さんに死の宣告をするのは……。
「お前は……何か知っているのか?」
奏さんが必死の表情で私を見つめてくる。
「……はい」
「そうか……」
「もし、奏さんが終わらせたいと思っているのなら……」
……お話しします。
たったそれだけのことが出てこない。
だから、奏さんは気付いてしまった。私の言おうとしてることが、決して無条件にハッピーエンドを迎えるようなものじゃないと。
「……俺は臆病だな。あれほど終わらせたいと願っていたのに、いざとなると……」
「奏さん……」
私は、ぐいっと奏さんの首を引き寄せた。
「……んっ……い、いきなり何をするんだ……」
驚く奏さん。その切れ長い目が大きく見開かれる。
そう言えば、こんな風に私からキスしたことって無かったっけ。
「キスしたかったから、キスしたんです」
そう言ってにっこりと微笑む。
そう……私が、怖がってり弱気になっちゃダメよ。
私だけは、奏さんの悲しみを支えられるようにならなきゃ。
奏さんが、自分でちゃんと選択出来るように支えてあげないと。
「……私も臆病です。奏さんが終わらせたいって思っていることわかってたのに、奏さんに選ばせてます」
あんなに一生懸命、自分のことを調べていた奏さんが、終わらせたい思っていないわけないのに。
「当然だ。俺のことを俺が決めるのは……」
そう言いかけた唇にもう一度、ちょっと強引にキス。
奏さんに勇気を吹き込むように、私はここにいますと言うように。
「お、お前……」
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