第2章

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 「私は奏さんのことを愛しています、たとえ、奏さんが何であったとしても」  そう言って、その身体にぎゅっと抱きつく。  「……この温かさは本物です。私は、忘れません」  「めちゃくちゃなヤツだな……」  奏さんの顔に、少しだけ微笑みが浮かぶ。  だが、それも一瞬だけ。すぐに元の悲痛な表情が浮かぶ。  「お前の方が温かい……」  そう言って、私の頬に触れる奏さん。  その指が、私の顔の輪郭をなぞるように動く。  「俺はわすれない……お前の顔を、声を、ぬくもりを……決して忘れたりはしない」  そして、私の胸に顔を埋める。  「奏さん……私も、忘れたくありません」  私は、奏さんをしっかりと抱き締めた。  「お前に……会えて良かった……真柴奏になれて良かったと思う……」  過去形で語るんですね……奏さん。  その囁きはとてももの悲しくて……  言いようの無い運命に翻弄され続けた奏さんの心の傷に、やっと触れられた気がした。  ドンッ  「だめだ!」  急に私を突き飛ばして、背中を向ける奏さん。  「……奏さん?」  「……俺は怖んだ。親密になればなるほど、お前との別れがつらくなるから」  「奏さん……」  つらそうに呟いた背中が、私を拒んでいた。  「……すまんな……ここまで来て、俺はまだ、迷っている」  部屋から出て行くこともできずに立ち尽くしている奏さんの全身を、柔らかな冬の日差しが包み込んでいる。  その温かそうな光を見つめていたら、自然に口が動いていた。  「奏さん……終わりにしませんか?」  「終わり?」  すごい勢いで私に詰め寄った奏さんの視線は、怖いぐらいに鋭かった。  「繰り返し、繰り返し、誰にも覚えてもらえない偽りの人生を生き続けるのなんて、苦しすぎませんか?」  「…………」  奏さんは不安と恐怖の入り混じった顔で私を見ていた。  「奏さん……私は忘れたくないんです。奏さんのことを」  そう言いながら、段々不安になってくる。  類まれなる魔力を持っていたおじいちゃんでさえできなかったことを私は今……しようとしている。  唇を噛み締めて、私を見つめる奏さんの手も震えていた。  そのまま私たちは長い時間、黙って見つめて合っていた。  「……終わらせることができたら、俺は忘れられずに済むのか?」  最初に口を開いたのは、奏さんの方だった。  「それは……」
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