第2章

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 特異体質のことだけじゃない、奏さんはなにかもっと深い悩みを抱いている。そんな気がした。  「資格なんていりませんよ。だって、付き合っているんだから」  なるべく明るい声で、奏さんにそう言う。  「ああ……そうだな」  でも、奏さんの顔から、悲しみの色は消えなかった。  「驚かせて悪かったな」  「いいえ……」  「美琴には……黙っていて欲しい」  その言葉に頷くと、私はその部屋を後にした。  さっきの特異体質のことといい、奏さんは一体何者なんだろう?  「やっぱり、人間……じゃないの?」  つい、口から出た言葉を、首を振って否定する。  ……そんなはずは無いわよね。ちょっと傷の治りが早すぎるだけよね。でも、あの傷の治りの早さって……うちの魔物たち並みよね。  だめよ……そんなことを考えちゃいけない。そうよ、特異体質なだけよね。  それより……。  美琴ちゃんの家の前に立ち、振り返ると、奏さんの部屋には未だに電気がついていなかった。  ……奏さんの心は、あの部屋のように深い暗闇に沈んでいる。  奏さんを悲しませる悲しみの原因はなんだろう?  それを、私が取り除いてあげられたらいいのに……。  「で、兄貴じゃなくて、あたしに用ってのは一体どういう風の吹き回しかな?」  「うん」  冗談めかして笑ってるけど、美琴ちゃんが緊張してるのがわかる。  私が本気でなやんでいることが伝わっているんだ。  「奏さんって、何に苦しんでいるんだろう?」  「…………」  聞いた瞬間、美琴ちゃんの顔から笑いが引いた。  「私のことすごく大切にしてくれてるのに、その度に辛そうな顔をするの……」  いくら美琴ちゃんにでも、奏さんが私を『抱きしめる資格もない』と悩んでいるなんて言えないから、曖昧な言葉でごまかす。  それに、その事を話すには奏さんの特異体質のことも話さなければいけない。  口止めされているのもあったけれど、奏さんの心の傷を思うと、胸が痛んだ。  「そう……」  そう言ったきり、沈黙が続く。  私と美琴ちゃんで、こんなふうに黙り込むことなんてありえなかったのに……。  「やっぱり気にしてるんだろうな……赤ん坊の頃のこと」  「そうなのかな……」  本当の両親の顔を知らないと、色々と臆病になってしまうのかな……。  奏さんの悲しみの理由は、そんなことじゃない気がする。
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