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「前にね、こっそり調べたことがあるんだ」
「調べるって何を?」
美琴ちゃんはすぐには答えずに、机の引き出しの奥から、1冊のノートを取り出した。
美琴ちゃんにして珍しい、女の子っぽいキャラクターがついたノート。
あのキャラクターが流行ったのって、多分、3年か4年前。てことは、その頃のノート。
「これ……兄貴のことをうちに養子に貰うときに立ち会った親戚に、話しを聞きに行った時の記憶なんだ」
「えっ!?」
手渡されたノートの最初の何ページかは、見慣れた美琴ちゃんの字で埋まっていた。
「もう、その人は死んでいて……その人の奥さんって言う人から聞いた話なんだけど」
そう言うと、美琴ちゃんは何故かすごく言いづらそうにする。
「兄貴のお父さんらしき人は、赤ん坊の兄貴を残していなくなっているらしいんだ」
「えっ?」
「ある日その人の部屋を覗くと、ただ、胸のポケットに蝶の刺繍がある黒い大人物のシャツに大切そうに包まれて置かれた兄貴がいたらしい」
「そんな……じゃあ、本当のご両親の手がかりは……」
「当時、行方不明になったその人を、警察もかなり真剣に調べてくれたみたいだけど……」
そう言うと美琴ちゃんはため息を付く。
「その人自体、親戚もいないからその家にお世話になっていたらしくて…他に友人も知人も居なくて…お母さんらしき人も、結局見つからなかった」
「見つからないって……そんな……」
「ただ、その人は兄貴のことを置いていきたくておいていった訳じゃないらしいよ」
少しホッした。
何か深い事情があったのかな……。
「その人、兄貴に『奏』って名前を付けるようにって書き置きをしていったらしいから」
「そう……奏さんってお父さんがつけたんだ」
綺麗な名前だと思う。
「奏って名前は、行方不明になったお父さんと同じらしいんだ」
「同じ……名前……」
奏さんの名前は……唯一親から貰った物……それも、お父さんと同じ名前。
少しも愛情が無かったなんて思えないよね。
「もしかしたら何かの事件に巻き込まれた兄貴の親が、兄貴に将来のことを思って、預けて出て行ったんじゃないかって……」
その後、子供のいない真柴家に奏さんは引き取られた……のね。
「そのこと、奏さんは知ってるの?」
「多分ね」
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