第2章

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 涙が、どんどんこみ上げてくる。だって、ひどいよ、奏さん……!  私の気持ちはどうなるの? 人間じゃなくたって、奏さんが好きだよ。その気持ちをを信じてはくれないの?  「どうして、どうして奏さんはいつも私を置いていこうとするの? どうして自分だけで抱え込もうとするの?」  だだっ子のように泣き叫ぶ私。  「違う……そうじゃない。お前の悲しむ顔を見たくないんだ。これ以上俺にかかわらろうとするな……頼む」  そう言いながら、奏さんは私の涙を拭ってくれる。  言葉と裏腹に、その指が優しくて、ますます胸が痛くなる。  誰かを突き放したようでいて、奏さんは、いつも誰かを求めている。  今だって、無理矢理私を引きはがすことだって出来るはずなのに……。  「どうして? どうしてそんなこと言うんですか……」  「俺は、お前と一緒にいることが出来ない」  奏さんは、半ば諦めたように、言葉を紡ぎだした。  「それって、年を取ってもずっと同じ姿だから、立ち去らなくちゃいけないってことですか?」  そんな昔話、おばあちゃんから聞いたことがある気がする。  人間の男性を好きになって、人間にばけて結婚したけど、いつまで経っても若いままで、結局家を出てしまった女の人の話。  「……違う」  きつく唇を噛みしめた奏さんの両手が、怖いものでも見てるように小刻みに震えている。  「……今度の誕生日を迎える頃、俺は消える」  「消える!?」  思わず奏さんを見上げる。  「正確には、消えるのは真柴奏という存在だ。俺自身は、赤ん坊に戻って、永遠にこの世をさまよい続けるのだから」  「そんな……」  信じられなくて、言葉が続かなかった。  「そして、真柴奏という男の記憶は、人々の中から綺麗に消えてしまう」  ……消えてしまう? 私の中から、奏さんの記憶が?  だから、警察が探したときにも、友人知人が一人も見つからなかったのね。  「お前のじいさんとばあさんだけは、忘れないで覚えてくれていたみたいだがな」  「だったら……私だって覚えています!」  「では聞くが、お前の母親は俺のことを覚えていたか?」  「それは……」  おぼろげには覚えていたけれど、詳しい話は聞き出せなかった。  「お前の母親は、俺のことを弟のようにかわいがってくれていた。お前の祖父母などよりも、仲が良かったほどだ」  「ママが……?」
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