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涙が、どんどんこみ上げてくる。だって、ひどいよ、奏さん……!
私の気持ちはどうなるの? 人間じゃなくたって、奏さんが好きだよ。その気持ちをを信じてはくれないの?
「どうして、どうして奏さんはいつも私を置いていこうとするの? どうして自分だけで抱え込もうとするの?」
だだっ子のように泣き叫ぶ私。
「違う……そうじゃない。お前の悲しむ顔を見たくないんだ。これ以上俺にかかわらろうとするな……頼む」
そう言いながら、奏さんは私の涙を拭ってくれる。
言葉と裏腹に、その指が優しくて、ますます胸が痛くなる。
誰かを突き放したようでいて、奏さんは、いつも誰かを求めている。
今だって、無理矢理私を引きはがすことだって出来るはずなのに……。
「どうして? どうしてそんなこと言うんですか……」
「俺は、お前と一緒にいることが出来ない」
奏さんは、半ば諦めたように、言葉を紡ぎだした。
「それって、年を取ってもずっと同じ姿だから、立ち去らなくちゃいけないってことですか?」
そんな昔話、おばあちゃんから聞いたことがある気がする。
人間の男性を好きになって、人間にばけて結婚したけど、いつまで経っても若いままで、結局家を出てしまった女の人の話。
「……違う」
きつく唇を噛みしめた奏さんの両手が、怖いものでも見てるように小刻みに震えている。
「……今度の誕生日を迎える頃、俺は消える」
「消える!?」
思わず奏さんを見上げる。
「正確には、消えるのは真柴奏という存在だ。俺自身は、赤ん坊に戻って、永遠にこの世をさまよい続けるのだから」
「そんな……」
信じられなくて、言葉が続かなかった。
「そして、真柴奏という男の記憶は、人々の中から綺麗に消えてしまう」
……消えてしまう? 私の中から、奏さんの記憶が?
だから、警察が探したときにも、友人知人が一人も見つからなかったのね。
「お前のじいさんとばあさんだけは、忘れないで覚えてくれていたみたいだがな」
「だったら……私だって覚えています!」
「では聞くが、お前の母親は俺のことを覚えていたか?」
「それは……」
おぼろげには覚えていたけれど、詳しい話は聞き出せなかった。
「お前の母親は、俺のことを弟のようにかわいがってくれていた。お前の祖父母などよりも、仲が良かったほどだ」
「ママが……?」
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