第2章

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 「どんなに愛し合っている恋人同士でも、永遠に一緒にいられるわけじゃないんですから。いつかは別れてしまうかもしれないし」  ?別れる″という言葉に、奏さんが息をのんだ。  「80歳、90歳になれば……ううん。ひょっとした、明日にでも事故で死んでしまうかもしれないし」  奏さんの手を強く握り締める。だけど、奏さんは握り返してくれなかった。  「私ね、恋人が思い病気だって告知された時って、きっとこんな気持ちなんだと思うの」  実感わかなくて、でも、胸の奥に鈍い痛みがあって。  本当はどうすればいいのかわからないけど、どうにかしようって気持ちだけが先走っていて。きっと、恋人の死を宣告された人は、こんな感じなんだと思う。でもね、1つだけわかってることがあるんだ。  「最悪の別れの前に、別れてしまおうって言う人もいると思うけど、私はそんなのは嫌だな」  「お前……」  「一緒にいられる間だけは、忘れちゃっても後悔しないぐらい、たくさんのことをしたい。今だけしかないなら、今、最高に幸せになりたいよ」  「…………」  奏さんの戸惑いがその腕から伝わってきた。  帰り道、私たちは無言で手を繋いで歩いた。  本当はもっと一緒にいたかったけど、もう、分かれ道まできていた。  「……じゃあな」  奏さんが当たり前のように離れていく。  「奏さん! 私、明日も奏さんを迎えに行きますからね!」  それに返事はなかった。  「……奏さんのことを忘れちゃうなんて、そんなの嫌だよ」  私の胸を締め付けるような悲しみが襲ってきた。  少しでも奏さんと一緒にいたくて、奏さんを私の家に誘ったけど……。  まだ気持ちの整理ができてないままだったから、2人きりで向き合っても、どうしたらいいのかわからない。  こんな時に限って、私と奏さんの2人きりの時間をぶち壊してくれたロイたちもいないみたいだし。  ちらっと奏さんを見ても、奏さんは窓の外を眺めているだけ。  はぁ……。私、どうすればいいのかな?  簡単に結論が出るようなことじゃないってわかってるから、溜息が出る。  「今日、佐倉に詰め寄られた」  「智哉君に?」  智哉君、なんて言ったのかな? あまり酷いことじゃないといいんだけどな……。  「最近、お前がずっと悩んでいると言っていた。それで、お前を苦しませるなら別れろと言われた」  
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