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そこでブツブツと何やら呟き始めた眞紀子に、隆也が苛立たしげに声をかけた。
「おい、話を戻すぞ。それで? 相手はどんな男だ。本当に変な奴に引っかかったわけでは無いだろうな?」
「大丈夫よ。あの君島のおじさまに喧嘩をふっかける位の度胸はあるし、初デートからいきなり二人きりだと綾乃ちゃんが緊張するからって、綾乃ちゃんに配慮して私とあいつ同伴で、ダブルデートをした位だもの」
急に保護本能を刺激されたらしい兄の懸念を、笑って払拭したつもりの眞紀子だったが、それを聞いた隆也は僅かな時間考え込み、もの凄く疑わしそうに感想を述べた。
「それは……、単にそいつが考えなしの大馬鹿野郎なのか、或いは余程の甲斐性無しか、とんでもない腹黒で盛大に猫を被っているだけじゃないのか?」
それを聞いた眞紀子は盛大に噴き出し、笑いを堪えながら提案した。
「疑い深いわね~。それなら一度、実物を見てみる?」
「何?」
「実は明日、初めて二人だけでデートに行くのよね。それに関して綾乃ちゃんに色々アドバイスを求められたから、待ち合わせの場所と時間も知ってるんだけどな~」
そう言ってニヤニヤと笑いながら唆してきた妹に、隆也は思わず失笑した。
「明日なら予定は無いな……。良いだろう、乗せられてやる。さっさと教えろ」
「はいはい。尾行するのは、職業柄お手の物でしょうからね。好きなだけストーカーして頂戴、警視正様。だけど経歴に傷が付くから、捕まっちゃ駄目よ?」
「相変わらず可愛げの無い。だから一言も二言も余計なんだ、お前は」
眞紀子の物言いに苦笑いしてからワインを一口飲んだ隆也は、自分に言い聞かせる様に家族に告げた。
「最近は現場に出る事も少なくなったから、初心に返ったつもりでやってみるさ。取り敢えず一度様子を見て、安心出来そうな男なら、以後は関わらない事にするしな」
「二人の為にも、是非そうして頂戴」
「あらあら、大変」
「こんなでかいオマケ付きでデートとは、綾乃ちゃんは夢にも思っていないだろうな」
家族全員で顔を見合わせ、誰からともなく笑い出した榊家は、その日は夜が更けるまで、笑い声が絶えなかった。
榊家とは対照的に、自宅マンションで独りきりで夕飯を済ませた貴子は、食器を片付け終えてからふと思い付いて、異父弟に電話をかけてみる事にした。待つ事十数秒で応答があり、明るく声をかける。
「祐司、今大丈夫?」
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