第1章 事の発端

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 そこでブツブツと何やら呟き始めた眞紀子に、隆也が苛立たしげに声をかけた。 「おい、話を戻すぞ。それで? 相手はどんな男だ。本当に変な奴に引っかかったわけでは無いだろうな?」 「大丈夫よ。あの君島のおじさまに喧嘩をふっかける位の度胸はあるし、初デートからいきなり二人きりだと綾乃ちゃんが緊張するからって、綾乃ちゃんに配慮して私とあいつ同伴で、ダブルデートをした位だもの」  急に保護本能を刺激されたらしい兄の懸念を、笑って払拭したつもりの眞紀子だったが、それを聞いた隆也は僅かな時間考え込み、もの凄く疑わしそうに感想を述べた。 「それは……、単にそいつが考えなしの大馬鹿野郎なのか、或いは余程の甲斐性無しか、とんでもない腹黒で盛大に猫を被っているだけじゃないのか?」  それを聞いた眞紀子は盛大に噴き出し、笑いを堪えながら提案した。 「疑い深いわね~。それなら一度、実物を見てみる?」 「何?」 「実は明日、初めて二人だけでデートに行くのよね。それに関して綾乃ちゃんに色々アドバイスを求められたから、待ち合わせの場所と時間も知ってるんだけどな~」  そう言ってニヤニヤと笑いながら唆してきた妹に、隆也は思わず失笑した。 「明日なら予定は無いな……。良いだろう、乗せられてやる。さっさと教えろ」 「はいはい。尾行するのは、職業柄お手の物でしょうからね。好きなだけストーカーして頂戴、警視正様。だけど経歴に傷が付くから、捕まっちゃ駄目よ?」 「相変わらず可愛げの無い。だから一言も二言も余計なんだ、お前は」  眞紀子の物言いに苦笑いしてからワインを一口飲んだ隆也は、自分に言い聞かせる様に家族に告げた。 「最近は現場に出る事も少なくなったから、初心に返ったつもりでやってみるさ。取り敢えず一度様子を見て、安心出来そうな男なら、以後は関わらない事にするしな」 「二人の為にも、是非そうして頂戴」 「あらあら、大変」 「こんなでかいオマケ付きでデートとは、綾乃ちゃんは夢にも思っていないだろうな」  家族全員で顔を見合わせ、誰からともなく笑い出した榊家は、その日は夜が更けるまで、笑い声が絶えなかった。  榊家とは対照的に、自宅マンションで独りきりで夕飯を済ませた貴子は、食器を片付け終えてからふと思い付いて、異父弟に電話をかけてみる事にした。待つ事十数秒で応答があり、明るく声をかける。 「祐司、今大丈夫?」
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