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「ああ、姉貴。大丈夫だけど、どうかしたのか?」
「明日の日曜、またお惣菜の作り置きに行こうかと思ったんだけど、部屋に居るかしら?」
軽い気持ちで尋ねた貴子だったが、予想に反して弟は申し訳無さそうに言葉を返してくる。
「悪い、明日はちょっと……」
そこでピンとこない貴子では無く、笑って電話越しに宥めた。
「あら、デートとか? それなら別な日にするわよ?」
「ああ……、うん、そうしてくれるかな」
「気にしないの。だけどまた保護者もどき同伴でWデート? 恋愛初心者の彼女を持つと、本当に色々大変よね」
話に聞いていた、紆余曲折を経て弟が最近漸く付き合い出した彼女との事を茶化す様に口にすると、電話の向こうから弁解がましい呟きが漏れた。
「いや、明日は二人で出掛けるから……」
「え? 本当? 二人で出掛けるのって初めてよね? 良かったじゃない! 一歩前進で!」
途端に嬉々として食い付いた貴子に、祐司が不機嫌そうな声音で言い返す。
「姉貴……、笑ってるだろ?」
「だって、これが笑わずにいられますか! 可愛い彼女を目の前にして、おあずけ状態が随分続いてたんだもの! ……あ、姉として一言忠告しておくけど、がっついて早速ホテルに連れ込むんじゃないわよ?」
「そんな事、誰がするか!!」
本気で怒鳴りつけてきた祐司に、貴子はとうとう我慢できずに盛大に噴き出した。そして何とか笑いを抑えながら、したり顔で言い聞かせる。
「まあ勿論、次回以降は大目に見るから。頑張りなさい」
「……余計なお世話だ。切るぞ?」
「そんな怒らないでよ。一応、弟の恋路を心配しているのに」
「一応かよ……」
凄んできた祐司を宥めると、うんざりした声が返って来たが、ここで貴子は考えを巡らせた。
(ここまで祐司が手こずった相手の子に、ちょっと興味が有るけど……。真っ当に聞いても、答えないでしょうしね)
これまでそつなく女性との『お付き合い』をこなしてきた弟が、勝手が違う相手に振り回されている話を聞くだけで、毎回笑えていた為、今回は是非とも実物を確認してみようと、貴子は密かに心に決めた。
「ねぇ、祐司。因みに明日は、彼女とどこで何時に待ち合わせ?」
「……何でそんな事を聞くんだ?」
明らかに警戒モードに入った祐司に、貴子はスラスラと口からでまかせを並べ立てる。
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