第2章 意趣返し

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「おう、戻ったか隆也。これ、お前宛だろう? 今日、うちの事務所に届いてな」 「父さんの事務所に?」  自分の隣に置いてあった小ぶりのダンボール箱を取り上げ、自分に向かって差し出してきた父親に、隆也は(どうして俺の物が、親父の事務所に届くんだ?)と訝しく思いながらも、短く礼を言って受け取った。そして届け先名に〔榊総合弁護士事務所所長 榊亮輔様方 榊隆也様〕、送り主名に〔宇田川貴子〕の記載を認めて、疑問が氷解する。 (あの女狐!! 何て事をしやがる!!)  両手で箱を掴んで、盛大に顔を引き攣らせた隆也だったが、息子のそんな表情など滅多にお目にかかれない両親は、爆笑寸前の表情で話し出した。 「いやぁ、これが届いて、今日事務所で一悶着あってな」 「さっきお父さんに聞いたけど、凄い警戒しちゃったんですってよ? なんでも『わざわざ息子さん宛の荷物をここに、しかも所長に送り付けてくるなんて、おかしくありませんか?』って」 「勘ぐるにも程があるが『取り敢えず息子さん宛と油断させて受け取らせておいて、中を確認しようと開けたら爆発でもしませんか!? 所長、今そんな物騒な件を取り扱っていませんよね!?』とか。考え過ぎだ、あの馬鹿者が」 「本当に。その方、神経質過ぎるわね」 「一人じゃなくて、複数でな。頭でっかちは、これだからいかん。再教育の必要ありだ」 「まあ、大変」 「…………」  豪快に笑う父親と、心底楽しそうに笑う母親の前で、隆也は辛うじて無言を保った。その反応が不服だったのか、亮輔が多少つまらなさそうに声をかける。 「おい、隆也。何を黙っているんだ。お前宛の荷物なんだし、何か言って然るべきだろうが?」  そう促されて、隆也はしぶしぶと言った感じで言葉を発した。 「事務所内を騒がせてしまったみたいで、悪かった。それで結局、その騒動はどうなったんだ?」 「うん? どうもこうも、『そんな物騒な物じゃないだろう』と言いながら勢い良くダンボール箱を開けて、中身を取り出して見せたら、皆納得したぞ? それを見て、一人気の弱い者が気絶したがな。騒ぎと言えばそれ位だ。あと『どうしてあの宇田川貴子が、ここに息子さん宛のチョコを送り付けて来るんですか!?』と、何人かに問い詰められたが」 「そうか……」 「ところでその疑問に、俺は明日何と答えれば良いんだ?」
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