第13章 ぬいぐるみの秘密

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 大きな石の左右に、一回り小さい石が一つずつ付いたそれは、照明を受けて煌めいていたが、暫く無言でそれを凝視していた貴子は、無表情のままそれをつまみ上げ、左手の薬指に嵌めてみた。すると当然の如く、それはぴったりとその指に収まり、貴子は忌々しげな表情を隠そうともせずに悪態を吐く。 「普段指輪は付けて無いし、教えた覚えも無いのに、どうして丁度良いサイズなのよ……」 (そう言えば、最後に『返品不可』とか言ってたのは、まさかこれの事?)  そこで別れ際の隆也の苦笑した顔を思い出した貴子は、勢い良く指輪を抜き、やや乱暴な動作で元通り箱にしまい込んだ。更にぬいぐるみが入っていた箱に放り込み、スカスカのそれを持ってまっすぐ納戸へと向かう。 「私は、ぬいぐるみしか見ていないわ」  自分自身に言い聞かせる様にそう呟いた貴子は、その箱を棚の一角に押し込むと、足音荒く納戸を出て勢い良くそのドアを閉めた。
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