第1章 様々な企み

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 夕食を済ませてから寝るまでの、ゆったりと過ごす時間帯。ソファーに座ってテレビを見始めた貴子の横に、ここ暫くのお約束通り、持参した資料を抱えて隆也が座った。間隔を10㎝しか取らず、しかも一言も断りも入れずに黙々と資料を読み込み始めた隆也に、貴子は目を細めて声をかける。 「……ちょっと」 「何だ?」 「いい加減、人の隣に座るのは、止めてくれない?」  かなり棘のある口調にも係わらず、隆也は資料から顔も上げずに淡々と応じた。 「別に、構わないだろう? 足を踏んでいるわけでもあるまいし」 「そんなデカい図体が横にあるだけで、圧迫感を感じるのよ!」 「それなら、もっとデカいソファーを買え。金なら出す」 「あんたってどこまで」  尚も言い募ろうとした貴子だったが、目の前のテーブルに置いておいたスマホが着信を知らせる為に、派手に鳴り響いた。それで隆也が初めて顔を上げ、迷惑そうに指さしながら促す。 「電話だぞ? 早く出た方が良いな」 「分かってるわよ!」  そして腹立たしげにそれを取り上げた貴子だったが、ディスプレイに浮かび上がっている、見覚えの無い番号を見て、無言で顔を顰めた。 (未登録の番号? こっちは主に仕事関係で使っているから、必要な連絡先は、粗方登録してあるのに……)  そんな戸惑いを敏感に察したらしく、隆也が一度資料に戻した顔を再び上げ、真顔で尋ねてくる。 「どうした?」 「何でも無いわ」  隆也に素っ気なく言ってから、貴子はその電話に応答した。 「はい、宇田川ですが」 「ああ、先生。夜分恐れ入ります。火曜の夜のコースでお世話になっている田崎ですが」  多少警戒しながら電話に出た貴子だったが、かなり恐縮気味な相手の声を聞き、確かに教室で連絡用に名刺を渡していたと思い出して、いつも通りの声で話を進めた。 「あら、田崎さん。どうされましたか? 何か授業内容で、分からない事でもありましたか?」  それを耳にした隆也も、仕事関係の話かと興味を失った様に手元の資料に視線を戻したが、会話の流れを聞いているうちに貴子の方に視線を向けた。 「いえ、そうでは無くて……。誠に申し訳無いのですが、プライベートで相談に乗って頂きたく……」
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