第1章 様々な企み

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「プライベートで、ですか? 私は構いませんが、田崎さんの様に年齢と経験を十分重ねていらした方に相談されても、私の様な若輩者が適切なアドバイスをする事ができるかどうか、分かりませんが……」 「第三者の、率直な意見を伺いたいので。先生の年頃の女性が、自分の父親が、急に二十も年下の女性と再婚すると言い出したら、どう思いますか?」  そんな事を言われて、貴子は即座に事情を察した。しかし慎重に、躊躇いがちな口調を装って、話を続ける。 「ええと……、父親が再婚、ですか? それはまあ……、普通は驚くと思いますよ? しかも二十歳年下という事は、自分とそう年が変わらない相手になると思いますし」 「……そうですよね」  そこで相手が消え入りそうな声で黙り込んだ為、貴子の方から話を進めてみた。 「その……、立ち入った事をお聞きしますが、田崎さんには再婚を考えている女性がいらっしゃるんでしょうか?」 「はあ……、お恥ずかしながら……」 (例の詐欺グループに、見事に釣り上げられちゃったわけね。さて、どうしたものかしら?)  相手が照れ捲りながら話しているのが分かる口調だった為、貴子は溜め息を吐きたいのを堪えながら、考えを巡らせた。そして何気なく左手に持っていたスマホを、右手に持ち替えて右耳に当てて会話を続けようとした時、いきなり隆也が空いた左手を掴んでくる。 (え? ちょっと、何するのよ!?)  貴子は素で驚き、目線で抗議しながらその手を振り払おうとしたが、隆也は相手は何を考えているのか、真顔で彼女の手をしっかり掴んで離さなかった。無言のまま二人で押したり引いたりしているうちに、黙り込んでいるのを訝しんだ田崎が、怪訝そうに電話越しに声をかけてきた。 「先生? どうかしましたか?」  そこで取り敢えず隆也は放置する事にして、貴子は田崎に意識を向けた。 「あ、いえ、すみません。そういえば以前田崎さんから、私とそう年の変わらない娘さんが二人いらっしゃると、お聞きした事がありましたね。ひょっとして再婚の話をしたら、お二人がどう反応するか心配なさっておられるんでしょうか?」
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