第1章 様々な企み

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「はい、その通りです。年甲斐も無くと反対されそうで、どう言えば良いものかと……。それに今、彼女の息子が難病で入院していて、彼女はその手術費用を工面する為に、一生懸命働いていまして。それで彼女は固辞しているんですが、是非手術費用を出してあげたいと思っているんです。しかしそんな事を正直に娘達に言えば、財産目当てだと彼女を罵倒しかねませんし……」  田崎は如何にも苦悩している口調で告げてきたが、貴子は本気で頭痛を覚えた。 (うわぁ、なんてベッタベタな話。田崎さん、一代であの田崎電産を巨大企業に育て上げた人なのに、どうしてそんな与太話に引っかかるんですか……。よほど凄腕の、詐欺師グループらしいわね)  そうしてどういう風に話を持っていこうかと悩んだのも束の間、貴子は真剣な口調で、電話の向こうに言い聞かせた。 「田崎さん、きつい事を言う様ですが、世間一般的に見て、田崎さんとそういう女性の結婚だと、彼女が財産目当てに田崎さんを誑かしたと言われても、おかしくないと思います」 「そうでしょうね」 「ですから、事を荒立てようとしないよりも、寧ろ最初から問題点を明らかにしておいた方が、却って上手くいくのではないですか?」 「は? どういう事ですか?」  貴子の言わんとする事が分からなかった田崎は、戸惑った声を上げた。そんな彼に、貴子は真面目くさって解説する。 「つまり、お嬢さん達は田崎さんの財産が、勝手に使われてしまう事を心配しているわけですから、再婚に当たってお嬢さん達に予め、纏まった額の生前分与をするのも一つの手ではないでしょうか。その代わり、その結婚相手に渡す息子さんの手術費用も生前贈与の形にして、死亡時の相続額からその分を差し引く旨の誓約書を相手に出して貰えば、お嬢さん達の心証も幾らかは良くなるのではないかと。田崎さんがお亡くなりになった時の事に言及するなんて、失礼過ぎるかとは思いますが、問題を先送りにするより、先に解決しておいた方が揉めないと思いますので」  その説明を聞いても田崎は腹を立てたりはせず、真剣に考え込む風情になった。 「なるほど……、先生の仰る事にも一理ありますね。確かに、ただ彼女にこっそり大金を渡したら、他にもどれだけ渡したのかと、娘達に勘ぐられそうです」
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