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「弁護士に相談する様な大事にしたくなければ、公証役場に出向いてどういう形式にすれば良いのか相談すれば、その通りに公式な書類を作成して貰える筈ですよ? そうすればどの程度の額の金額を渡したかの証明にもなりますし、大事にもならずに相談料も安く済む筈です」
そこまで話を聞いた田崎は、幾らか気が楽になった様な口調で、貴子に礼を述べてきた。
「分かりました。その方向で考えてみます。ご助言、ありがとうございました」
「いえ、大した事ありませんから。上手く話が纏まるのを祈っています」
「ありがとうございます」
「もし、差し支えなければ、お話に進展があったら、何かのついでにでも教えて頂きませんか? 無責任な事を言ってしまったかと、気になってしまいそうなので」
「勿論ですよ。こちらが勝手に個人的な事で意見を求めてしまったんですから。進展があったらお知らせします。良かったらまた相談に乗って下さい」
「はい、それではまた来週、教室でお待ちしております」
「お世話様でした。失礼します」
最後は互いに明るく挨拶をして通話を終わらせた貴子だったが、スマホを耳から外して回線を切った途端、それをソファーに放り出し、空いた右手を使って、自分の左手から隆也の手を引き剥がした。
「いい加減、さっさと手を離しなさいよ。このセクハラ野郎。さっきから、何やってんのよ?」
貴子が会話している間中、彼女の左手を撫で擦ったり指を絡めたりしていた隆也は、苦笑いしながらその非難の言葉を受け止めた。
「セクハラ、か。これ以上の事を、何度もしてるのにか?」
「手を握るだけでも、同意を得ていなければセクハラでしょうが!」
「お前、思ったより指が太いな」
叱り付けたのを微塵も気にする事無く、平然と、しかも脈絡のない事を突然言い出した相手に、貴子の顔が引き攣った。
「……あんた、そんなに殴り倒されたいの?」
精一杯恫喝した貴子だったが、そんな事で恐れ入る様な隆也では無く、飄々と言い返す。
「ちゃんと仕事をしてる人間の手だと、褒めているつもりだが? 俗に言う白魚の手なんぞで家事をやってる様に見せる、洗剤や子供用品のCMなんぞ、嘘くさくて見れたものじゃない」
その主張に、彼女は一瞬押し黙ってから、そもそもの疑問を口にした。
「それは分かったけど、どうして急に手を触ってきたのよ」
「単なる気分だ」
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