第1章 様々な企み

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「…………やっぱりあんたって、訳が分からないわ」  心底うんざりとした表情で溜め息を吐いた貴子に、隆也が仕事上の顔になって確認を入れる。 「そんな事よりさっきの電話、例の詐欺グループの被害者からか?」  それに小さく肩を竦めて、貴子が端的に答えた。 「正確には被害者予備軍。相手の女性の難病の息子さんの手術費用として、大金が必要なんですって」 「警察が散々詐欺行為の手口を世間にアピールしてるってのに、そんなのに引っ掛かる人間が未だにいるとはな……」  今度は隆也が溜め息を吐くと、それを宥める様に貴子が付け足す。 「取り敢えず、結婚を前提にした生前贈与の手続きに基づいた、公文書を作成する様に唆してみたけど? 土壇場になって『あれは本人の意思でくれたんです』なんて、言い逃れできない様に。時間稼ぎにもなるでしょうしね」 「姑息な奴」  思わず苦笑いした隆也を、貴子は軽く睨みつけた。 「何よ。取り逃がしても良いの? 本人が外聞を憚って被害届を出さなかったら、逮捕できないんでしょう?」 「まあ、それはそうなんだがな。年はいってるが、お前の教室の生徒だろう?」 「だから余計によ。自分の職場を、狩場にされたら堪らないわ」 「気持ちは分からないでもないが、あまり積極的に係わるのは、お前の立場的にどうなんだ?」  何となく困った様な表情になった隆也から視線を逸らし、勢い良くソファーから立ち上がった貴子は、キッチンに向かいながらぶっきらぼうに尋ねる。 「ごちゃごちゃ五月蠅いわね。喉が乾いたからお茶を飲むけど要る?」 「頼む」 「了解」  隆也に背中を向けたまま応答した貴子は、そのままキッチンに姿を消した。そして一人きりになったリビングで、隆也は自分の右手を見下ろす。 「10……、いや、11号だな」  妙に確信に満ちたその呟きは、当然彼以外の誰の耳にも届かなかった。
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