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「まったく、いったいどこに隠れていたんだか……」
三時間も探して見つけられなかったのが悔しい。でも松川さんはそれでよかったんですよと言ってくれる。
「たぶんあの子は、ずーっとあなたの後ろをついて回ってましたよ」
「え、うそでしょ……」
「一向に気づかないあなたを見て、あの子は楽しそうに笑っていました。僕、クラゲのところで一度鉢合わせてるんです。スパイごっこをしているつもりだったのかもしれませんね。でもですね、それだけじゃありませんよ。あなたが三時間も諦めずに歩き回ってじぶんを探していた……そのことに、きっと彼は安心したと思います」
穏やかな声が、私を褒めてくれている。
これまでの苦しかったこと全部、我慢してきてよかったと思った。
また涙が滲んできて、少し焦る。
今からあの子を迎えに行かなきゃいけないのに、目が真っ赤に腫れていたら変な誤解をさせてしまうかもしれない。
まばたきを繰り返して、涙を散らす。
そろそろ、行かなくては。
私も立ち上がって、スタッフさんと松川さんに深く頭を下げた。
「今日、ここでお話ができてよかったです。おふたりのおかげで私、まだ泣かずに済みそう。――また、遊びに来ます」
「はい、お待ちしております」
ふたりは、揃って品のいいお辞儀を返してくれた。
また歩き出そう。
あの子を見つけるまで、何時間でも。
あの子がいなくなるたびに、何度でも。
ちびクラゲが飽きもせず、水面を目指し続けるのと同じように。
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