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「緊張? どうして。だって私が知らなかっただけで、実家には君島さんと同様これまで何度も出向いているんでしょう?」
納得できない上、わけの分からない事を言い出した相手に幸恵は首を捻ったが、和臣は淡々とその理由を説明した。
「それはそうだけど、幸恵さんと一緒に荒川家に出向くのは初めてだし。予行演習になって良いけど」
「予行演習? 何の?」
「所謂『お宅のお嬢さんを下さい』ってやつ」
「なっ!?」
言葉を失い、口を虚しく開閉させている幸恵に、和臣は満面の笑顔で付け加えた。
「あ、安心して。俺の実家への挨拶の時は、幸恵さんがなるべく緊張しないように、俺が事前に根回ししてできるだけの配慮を」
「年の暮れに、何を馬鹿な事口走ってるのよっ!! ふざけるなぁぁっ!!」
「幸恵さん、電車の中だから。周りの迷惑だから静かにしようね?」
「誰のせいだとっ……」
(全く全く全くぅぅ~っ!! 何を一人で先走って……、いや、そうじゃなくて! そもそも私達、付き合ったりしてないから!)
勢いのまま和臣のセーターの喉元を掴み上げ、盛大に怒鳴りつけた幸恵を、和臣は苦笑気味に宥めて何とかその場を落ち着かせたが、それから幸恵は微妙な空気を醸し出したまま実家に到着した。
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